「うつ死」しないための処方箋

うつ病のまま死ぬというのは、なんとしても避けたいものです。

ただ、うつ病は認知症とは違って、治療法がないわけではありません。薬が意外と効きやすいのです。

うつ病は、若い人ほど心理的問題が絡むとされているので、若者には薬はあまり効果がありません。

しかし、高齢者の場合は脳内の神経伝達物質であるセロトニンが減少し、それがうつ病を引き起こしていると考えられているため、セロトニンを補う薬を投与すると非常に良く効きます。

診察のとき、脳梗塞の後遺症で片麻痺があって手も震え、奥さんを亡くして「私はもう生きすぎました」などと嘆く高齢者を前にして胸が塞がる思いがするのですが、うつ病と考えて薬を出すと、「年を取るというのは、こんなものなんですね」と笑顔が戻り、食欲も復活して、驚くことがあります。

日頃からセロトニンを増やしておくことは、うつ病の予防にもなりえます。

たとえばセロトニンの材料であるトリプトファンが多く含まれる、肉や魚、大豆製品、乳製品、バナナなどを多めにとる。

肉より魚や乳製品のほうがヘルシーだと考えられやすいのですが、コレステロール値が高い人のほうがうつになりにくいことが明らかにされていますし、高齢になれば動脈硬化の予防より心の健康を優先させたほうがいいという私の考えから、肉をおすすめしています。

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高齢者は「足し算医療」で健康維持

私は多くの高齢者を診察してきて、年を取ったら、余る害よりも足りない害のほうがはるかに大きいことを知り、高齢者の健康維持には足し算が不可欠であると考えるようになりました。

高齢になればどうしても栄養が不足し、運動が不足し、性ホルモンが不足するなど足りないものがたくさん出てきます。

年を取れば取るほど、検査の異常値を叩いてその数値を下げる「引き算医療」より、その足りなくなった必要なものを足し算することによって健康をキープしていこうというのが私の考える「足し算医療」です。

脳内のセロトニンもそうですが、高齢者を要介護にしないための重要な要素として、とくに男性の場合は男性ホルモンを足す必要があります。

男性ホルモンが減ってくると意欲が落ちてきて、外出しようとしなくなるので要介護になるリスクが高くなります。記憶力、判断力も低下してきて、人づき合いがどんどん面倒になってきます。

だから奥さんにだけベタベタくっついて濡れ落ち葉などと疎まれるようになるわけですが、人間関係が希薄になるとボケるリスクも高くなります。