イラン国内の支配体制は末期状態

では、ほかの大国はどうだろう。力不足の米国に取って代わろうとするのは、ロシア、イラン、中国あたりか。2011年から続く泥沼のシリア内戦で、中東でふたたび存在感を増してきたロシアだが、いまは影が薄い。ロシア人を軍事的なお得意さまと考えるイランは別として、兵器供給にかぎらず他の面でも、すっかり影響力を失なっている。

そのイランは、イエメン、レバノン、ガザの戦闘部隊に資金と物資を提供しており、地域で無視できない力を持っている。だが国内では世代間の衝突が激しく、イスラム教を柱とする支配体制はもはや末期状態だ。今後の展開は不透明だが、イランがロシアや中国、北朝鮮と手を組んで、西側への「対抗軸」を構築するとは考えにくい。

第三の候補であり最も力がある中国を軸にすれば、西側に対抗する強国陣営が誕生しそうにも思える。2023年3月には、中国の仲介でサウジアラビアとイランが国交正常化を果たした。中国はこれで中東での役割をさらに高めていくかと思いきや、同じ年にイスラエルとハマスの戦争が勃発して、さすがに買いかぶりだと判明した。

中国が中東で「一線を越える」可能性は低い

石油の一大消費地であり、投資に積極的な中国はアラブ諸国にとって大切な存在だ。だが政治的には、米国に代わるというより、米国が手のひらを返したときの保険だ――挑発的な保険だが。

ビル・エモット『第三次世界大戦をいかに止めるか 台湾有事のリスクと日本が果たすべき役割』(扶桑社、訳・藤井留美)

中国がそれを打開するには、中東でハードパワーを展開する姿勢を見せなくてはならないが、その可能性はかぎりなく低い。たしかに一線を越えないほうが賢明だろう。米国の役割が新たな局面を迎えたいまの状況にあっても、中国は米国の影響力を完全になくしたいとは思っていない。

どんな紛争も地域ごとに性格が異なり、独特の難しさがある。中東であればなおさらだ。それでも根底に横たわる現実はひとつしかない。それは近年押しよせる大変動の波で利益を得る超大国などなく、どこも翻弄されるばかりだということだ。

その波に乗じて有利に立ちまわれる国はひとつもない。ウクライナ問題に団結して取りくむことができれば、西側諸国が引きつづき最も強い立場でいられる。ただし欠くべからざる存在ではあっても、万能にはなりえない。

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