ロシアが征服と戦争をやめない本当の理由
中国からすると、おそらくそのほうが好都合だった。プーチンは2008年にジョージアと短期間ながら交戦し、2014年にウクライナ領だったクリミアを併合してから、国家主義色を全面に出して攻撃の牙をむきはじめた。だが、ここにきてウクライナの征服はおろか、制圧すらできずにいるロシアは、強さではなく、弱さばかりが目立つ。
ロシアの軍事技術は時代遅れで、組織運営も指揮能力もお寒いかぎりだ。世界最大数を保有する核兵器で相手を脅すことはできるし、石油や天然ガスなどの豊富な資源を売れば、軍資金が尽きることはない。
けれども、侵攻をきっかけに特殊技能を持つ若者たちが国外に流出しているし、頼みの化石燃料もいずれはグリーンエネルギーに取って代わられることを考えれば、経済および財政基盤はこころもとない。
弱体化したロシアは危険な隣人になってきた。プーチン大統領は、国の領土と勢力、そして自らの政治力は征服と戦争で維持するしかないと思いこんでいる。中国にとって、そんなロシアは戦略的パートナーとして重要な存在だ。核兵器を増やす野望を実現するには、ロシアの支援は欠かせないからだ。
中国の関心事は、ロシアのプルトニウムと濃縮ウランを入手して、核兵器の備蓄を増やせるかどうかであって、ロシアとウクライナの戦争は大した問題ではない。
イスラエル・ガザを仲介できないアメリカ
ロシアと北朝鮮の急接近にも同じことがいえる。友情の復活も、根底にあるのは国の弱さだ。ウクライナと戦争するロシアは、北朝鮮が製造し、保有する兵器がほしい。北朝鮮は弾道ミサイル計画と人工衛星の打ちあげに、ロシアの技術と支援がほしい。
ロシアと中国、ロシアと北朝鮮の昨今の関係に胸騒ぎを覚えるのが東アジアだろう。とくに日本は、自国の安全保障への脅威が増すだけでなく、中国が台湾を支配下において地域支配をもくろむ可能性が現実味を帯びてくる。
今日の地政学は危険をはらんでいるが、それは超大国が強いからではなく、弱いためだ。2023年10月7日の虐殺に始まったイスラエルとガザでの戦闘は、過去の中東紛争と同じく悲劇にほかならないが、超大国が弱くなったいまの時代を象徴し、未来を照らすテストケースにもなっている。
イスラエルが関わる戦争では、米国はつねにマデレーン・オルブライトのいう「欠くべからざる国」だ。だが実際に威力を発揮するのは、空母打撃群や兵器供与というハードパワーである。対して仲介や説得というソフトパワーは、効力を失なっているように見える。紛争の場でその役割が消えたわけではないが、行く末を左右するだけの決定力がない。