安倍晋三元首相は生前、「貸し方」の断トツトップだった。安倍氏は自らの政治力で2012年から総裁選に3連勝しただけでなく、20年に首相を退く際は官房長官だった菅氏を後継指名し、21年総裁選前には副総理・財務相だった麻生氏とともに「菅降ろし」も躊躇なく敢行した。

22年参院選で勝てず、「衆参ねじれ」を生じかねないという判断だった。その総裁選では、最大派閥の力も使って無派閥の高市早苗前総務相(現経済安全保障相)を担ぎ、決選投票で岸田氏が、党員投票で勝った河野氏(行政・規制改革相)を破るというシナリオを書き、監督・演出までしてのけたほどだ。安倍氏の意向で総裁が決まる、文字通りキングメーカーだった。

2019年4月、ホワイトハウスでトランプ大統領(当時)と会談する安倍晋三氏、麻生太郎氏(写真=The White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons

その安倍氏が22年7月に銃弾に斃れ、権力構造に空白が生じる。今の永田町で「貸し方」にいるのは、麻生、菅両氏と岸田首相の3氏くらいになった。そしてその貸しも比較的小さく、その意向がどれほど党内に影響するのか読みにくい状況になっている。

党員投票の結果が物を言う総裁選に

今回の総裁選は、麻生派を除く5派閥が解散し、従来のように派閥の合従連衡で総裁が決まるわけでもない。それどころか、次期総裁選は、次期衆院選と来年7月の参院選を控えて、重要ポストなどの政治経験やリーダーとしての資質よりも、党員投票の結果が示す国民的人気が物を言う異例の総裁選にならざるを得ない。

党内に「党員投票でトップになった候補を議員票中心の決選投票でひっくり返していいのか」(非主流派の閣僚経験者)との指摘もあるほどだ。このため、派閥の縛りやしがらみにとらわれず、中堅・若手を総裁選に擁立しようとする機運も出ている。

読売新聞世論調査(6月21~23日)で次の自民党総裁にふさわしい政治家を聞いたところ、ツートップは、石破氏(23%)と小泉氏(15%)で、3位に菅氏(8%)、4位は高市氏(7%)、5位に岸田首相と上川陽子外相(岸田派)、河野氏(6%)が並び、8位は野田聖子元総務相(無派閥)(3%)、9位は林芳正官房長官(岸田派)、加藤勝信元官房長官(茂木派)、茂木氏、小林鷹之前経済安保相(二階派)(1%)だった。

自民党支持層に限ると、石破(20%)、小泉(15%)岸田(14%)が上位3氏で、4位は菅(10%)、5位上川(8%)、6位河野、高市(7%)の各氏が続いた。この順位は総裁選の党員投票に近いと考えられている。

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「新たなリーダーが出てくるべきだ」

こうした情勢下で、菅氏が「岸田降ろし」の口火を切ったのだが、派閥の政治資金問題への岸田首相の対応について「責任をいつ取るかと見ていた人がたくさんいる。責任について触れずに今日まで来ている。不信感を持つ国民は多い」と述べ、厳しく指弾した。