マクロン氏悲願の「年金受給年齢の引き上げ」も白紙か

まず、第一勢力となった「新人民戦線」だが、これは、「不服従のフランス」、「社会党」、「緑の党」、「共産党」の連合で、実は政策も信条もバラバラ。中心人物は「不服従のフランス」党のジャン・リュック・メランション氏で、その党名からも察せられるように極左だ。メディアは左翼に対しては寛容なので、ル・ペン氏のことは「極右」と書いても、メランション氏は「急進左派」でお茶を濁しているが、その氏がすでに選挙前、フランスの政治を担う意思を表明していた。

ただ、現実問題として、政権樹立は至難の業だ。「新人民戦線」の左派4党をまとめることさえほぼ不可能なのに、過半数を取るためには、さらに保守与党勢力との共闘を要する。

しかし、メランション氏の公約は、最低賃金の大幅な引き上げ、基幹産業の国営化などで、その他、マクロン氏があれほど苦労して通した掌中の珠である「年金受給年齢の引き上げ(62歳)」を元に戻す(60歳)ことや、富裕層への所得税率を90%にすることも謳っており、マクロン氏の与党連合がメランション氏と組むのは不可能だと思われた。つまり、組閣の可能性はほぼゼロで、フランスは完璧に手詰まり状態になってしまった。

「フランスが民主主義を選択した」?

選挙の翌日の8日には、マクロン氏の党である「再生」のガブリエル・アタル首相が辞任を申し出た。敗北の責任を取るつもり(ポーズ?)だったが、マクロン大統領がそれを認めなかった。新しい政権の見通しもないまま、現在の政府を壊してしまったら、混乱が2乗になるだけだ。

しかし、こうなると、議会には新しく選出された議員が座り、政府の顔ぶれは以前と同じということになり、早晩、政治が機能不全に陥る。そうなれば、それはフランスだけでなく、EU全体を不安定化する要因にもなりかねない。つまり、ドイツから眺める限り、現在のフランス政治はカオスの淵に立っている。

さて、これらの動きに対するドイツの反応はというと、社民党や緑の党の政治家は一斉に、「フランスが民主主義を選択した」とお祝い気分。ル・ペン氏の「国民連合」が民主主義ではないという前提である。

しかし、メランション氏が民主主義かというと、実はこちらのほうが怪しい。氏は前述のように現在の政体の改革(転覆?)を掲げており、EUに対しても極度に懐疑的だ。その上、氏の周りには、反ユダヤ主義を憚らない政治家も多く、それどころか前科持ちの危険人物までいるという。ドイツの社民党と緑の党の政治家は、これらをひっくるめて民主主義の勝利として祝っているのである。