機械的な損切りをすると、資金が目減りする
投資シナリオから大きく外れたときだけ損切りをする
多くの投資本では損切りの重要性が説かれています。しかし、中長期の投資では損切りしないほうがいいというのが私のスタンスです。
たとえば、有名な手法に「買値から8〜10%の下落で必ず損切りする」というルールを設けるものがあります。しかし、中長期投資を行う個人投資家がこのようなルールを採用すると、損をする回数が増え、利益を伸ばす回数が減ってしまいます。
株式投資では、悪材料が出ていないにもかかわらず、保有銘柄が一時的に下落することは当たり前のように起きます。大口投資家による「売り仕掛け」によって、業績がいいはずの銘柄が急落することもありますし、たまたま他の業種・セクターに人気が集中したため、資金が引き揚げられることもあります。目先の値動きに惑わされ、機械的に損切りをすると、資金が目減りしていくだけです。
損が出た場面で必要なのは、数値に基づく損切りルールではなく、投資シナリオの見直しです。投資シナリオとは、その銘柄を買う理由や株価が上がると予想する根拠、利益確定のタイミングなどを含む自分なりの未来予測のこと。銘柄を保有する際に思い描いたシナリオが崩れたかどうかで損切りを判断します。
もしも株価下落の原因が「新規事業の成長を見込んでいたのに、撤退が発表された」など、投資シナリオの前提が崩れるような悪材料によるものであれば、損切りすべきです。世界恐慌など、今後の成長予測を打ち消してしまうような長期の下落トレンドが予想される場合も、損切りの対象でしょう。
一方で、買うときに設定した投資シナリオが崩れていないのであれば、長期的には株価回復を見込めるため、保有し続ければいいのです。仮に投資シナリオそのものが外れた場合には、シナリオ作りの考え方を改善する機会にもなります。機械的な損切りルールと比べて、投資家として成長できる手法なのです。
投資シナリオや反省点を記録する「売買ノート」を作ろう
どこかで必ず負けるのが投資。負けから学んでこそ大金持ちに
コロナショック以降、日本株は上昇を続け、日経平均株価は34年ぶりの最高値を更新しました。まさに誰でも勝てた相場です。しかし、いつかは下落トレンドが訪れて、ここ数年で通用していた投資手法が通用しなくなります。負けを知らないまま下落トレンドに直面すると、損失を被っても現実を認められず、無謀な取引を行い、さらに損失を重ねることになりかねません。
投資は負けて当たり前ということをまず肝に銘じてください。これまで勝てている人も、これから投資を始める人も、必ず負けるときが来ます。大事なのは、負けから学びを得ることです。
おすすめの方法は、自分の投資シナリオや反省点を記録する「売買ノート」を作ること。ノートには「市況の流れ」「経済や指数に対する自分の考え」「なぜこのタイミングで売買するのか」といったことを書きます。
多くの初心者は、「なんとなく」の感覚で株を売買しています。はっきりと言語化することによって改めて理解が進み、判断の精度を高められます。はじめは1行だけでも構いません。書いていくうちに、言語化することに慣れ、ノートの内容も充実していきます。
また、損した銘柄名と金額を記したメモを、取引を行うPCのデスクトップに表示するのもおすすめです。トレードする前に目に入ることで、感情に任せた無謀な取引や同じミスの繰り返しを防ぐ効果があります。振り返りと改善の習慣を身につければ、負けよりも勝ちが必ず上回ります。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。