NISAで予想される悪循環

老後のお金の設計にNISAが向いていない理由はまだあります。

・損益通算できない

「損益通算」とは、株式や投資信託を売却して利益や損失が出た場合、利益と損失を合算して合計が利益になっていれば、その利益に対して課税されるしくみ。たとえば、ある株式を売って50万円の利益が出る一方、別の株式で30万円の損失が出たら、50万円-30万円=20万円に税金がかかる、ということ。これが損益通算のしくみです。

また1年間の合算した損益が結果的に損失になった場合、翌年以降、最小3年間、繰り越せる「繰越控除」が適用されます。たとえば、ある年に30万円の損失で、翌年の利益が40万円であれば、繰り越した30万円の損失と40万円の利益を合算し、40万円-30万円=10万円に対して課税されるのです。

この損益通算と繰越控除が、NISA口座ではできません。株式投資は正直、これで儲かると思っても、なかなか理想通りに利益が出ることはありません。“塩漬け”になっているお金をさっさと損切りして、次の新しい運用に使いたいけれど、損益通算できないとそれもなかなか踏ん切りがつかない。こんな悪循環は多々起きます。

株式投資は、ある程度“損をする”ことが前提であれば、私は損益通算できるほうが結果的にオトクになると思っています。ですから運用するなら、NISA口座ではなく、一般口座や特定口座で行うことをお勧めします。

資産を分散投資するときのポイント

高齢者は「一般口座や特定口座で投資する」ことに加えて、資産を「分散投資」することが大切になります。増やすより、とにかく今ある資産を目減りさせないことが先決です。

もちろん80代でも、特定の資産に集中投資して成功しているトレーダーの方もいます。しかし、そういう人は、ずっと昔から投資をしてきたベテランの人。私の知り合いにもいますが、そういう人は本当に株式投資が好きで、『会社四季報』を24時間見ていても飽きない。それほど好きな人であれば、集中投資もよいと思いますが、そうでなければやめたほうがいいというのが私の考えです。

では、どうやって分散させればいいか。

ここ数年、日経平均が最高値を更新したり、戦争で世界的に物価が上がったりと想像を超えることが起きています。こうした景気リスクや地政学リスクの“有事”に備えるには、それらに敏感に「反応するもの」と逆に「反応しにくいもの」といったように、感応度の異なるものに分散させるのがおススメです。

具体的には、株式、債券、不動産、金や原油などはのコモディティは、それぞれ有事や景気に対しての反応の仕方が違う傾向にあり、こうしたところに分散させるのが重要でしょう。

株式も日本株と外国株に分散させます。日本円の目減りがこわいならば外貨にする、または外貨で「外貨建て社債を買う」、あるいはインド株などこれから伸びそうなインデックスファンドを買う、といった対策をします。

写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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