おいしいものが売れるのではない、売れているものがおいしいのだ

サイゼリヤの店舗数は、2000年からの22年間で国内300店から国内1069店、海外478店、売上高1442億円(2022年8月期)という一大フードサービス業へと成長を遂げました。この連載では、経営判断や意思決定のために、私がどのようにフレームワークを活用したのかを、サイゼリヤでのデータと事例を交えつつ、ご紹介していきます。読み終わる頃には、ちょっとしたMBAのメソッドも身につくはずです。

では、さっそく、第1話の講義をはじめていきましょう。

某ファミリーレストランのメニューの味が、一変したことがありました。おそらく本社の判断で、全店舗のレシピに指示を出し、味をコントロールしたのでしょう。そのとき私が思ったのは、「この店の味がおいしかったのに、もったいないな」ということでした。

「おいしいものが売れるのではない、売れているものがおいしいのだ」

これはサイゼリヤの創業者、正垣泰彦の言葉です。おいしいか、おいしくないかは、お客さまが判断すること。日々、お客さまの生の反応に接し、お客さまが何をおいしいと感じているかをいちばんわかっているのは、じつは各店舗の現場にいるスタッフです。

その意味では、本社でゼロからレシピを考えるより、売れている、おいしいと認められている店舗の「味」を、正式なレシピとするほうが正解といえます。

このように、お客さまが求める「おいしさ」を狙っていくのが、レストラン業であり、飲食業です。

ところが、意外に思われるかもしれませんが、おいしさを追求する一方で、レストランチェーンでは「おいしすぎる」料理を出してはいけないという理論があります。これは、レストランチェーンの宿命といってもいい。どういうことでしょうか。

カギとなるのは「味の設計」です。順番に説明していきましょう。

チェーンレストランと個人店では、「味の設計」が異なる

個人店と外食チェーンレストランの「味の設計」を、図で比較してみました(図1-1)。

多くの店舗を有するチェーンレストランと店舗数の少ない個人店では、味の設計が異なります。味を設計するとき、チェーンレストランは安定性を、個人店は圧倒的なおいしさを追求します。理由は、チェーンレストランでは料理をつくるのがほぼ素人であるのに対し、個人店ではプロが調理を行うためです。

最終的な料理の味というのは、食材の状態、つくり手の能力や体調、気温や湿度など様々な条件によって左右されます。食べる人の誰もが「圧倒的においしい」と感じる料理をつくるには、すべての条件がそろわなければなりません。