中国EVの脅威とG7の「対中強硬」宣言

G7サミットでは14日、議論の成果をまとめた首脳宣言を採択した。その中で、中国の「過剰生産」問題に対する結束も共有された。

「過剰生産」という言葉は当然ながら西側諸国の言い方であり、問題の本質は中国のEVの競争力が急速に高まっていることにある。首脳宣言にこの内容が入れられたのは、アメリカのバイデン大統領の意向が強いと見られる。2024年11月に大統領選挙を控えているバイデン氏にとって、対中強硬政策を推し進めることは、アメリカ国民に受けがいいからだ。

中国は10年以上前から「自動車強国」を目指してきた。もともと中国は消費大国という意味での「自動車大国」であったが、中国政府はさらに、中国で製造した自動車を欧米や日本などに輸出する「強国」になることを目標としてきた。2020年代に入り、EVの開発・普及によって、それが実現されたのだ。

中国発のEVというと低価格によって競争力をつけたと思いがちだが、実態としては性能面でも、欧米や日本のメーカーを上回る部分が出てきている。中国のEVメーカー「BYD」の最新車には、欧米や日本のメーカーのEVには採用されていない独自の部品や効率化の仕組みが採用されている。さらに「『iPhoneより安くて速いスマホ』の中国企業が、『テスラより安くて速いEV』を発売…自動車業界を揺るがす大衝撃」の記事でも紹介したように、自動運転やデジタル化、プラットフォーム化においても、中国のEVは世界を一歩リードしている状況だ。

写真提供=日刊工業新聞/共同通信イメージズ
BYDオートジャパン新型電気自動車(EV)「BYD SEAL」発表会。写真は=2024年6月25日、都内
BYDの人気小型車「SEAGULL」(写真=JustAnotherCarDesigner/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

欧州諸国が抱く「中国に対する本音」

こうした中国EVの脅威に対して、アメリカは異例の100%の関税を課すなどの強硬策をとっている。今回のG7では、この方針に欧州や日本も追随することになった。その裏には、中国がロシアに対して、武器は輸出していないとしても、部品や半導体、製造部材などの輸出をしているという問題がある。アメリカが中国に厳しい姿勢に出ているのは、こうした理由からだろう。

一方G7では対中強硬路線で協調したものの、欧州各国を見ていくと、中国に対する姿勢は本音では「つかず離れず」といったところか。フランスはもともと中国と親しく、本音としては取引をしたい。イタリアのメローニ首相は中国の「一帯一路(中国の習近平主席が提唱したシルクロード経済圏)」構想から離脱したが、一方で中国への訪問を計画しているという。ドイツは中国のEVに対して厳しい関税を課すと、中国に輸出しているフォルクスワーゲンなどのEVに対して報復措置をとられる可能性があり、規制には慎重になるだろう。