グラウンドでの「今日も頑張れよ、頼むな」からスタート
ただ、私がいくら「2016年シーズンの反省を踏まえて、コミュニケーションのあり方を考え直したんだ」と態度で示したところで、選手がいきなり心を開いてくれるはずもありません。
そもそも、「選手の背景」とは、言い換えれば「選手のプライベート」でもあります。長い付き合いの友人や恋人、夫婦同士ならまだしも、さほど信頼関係を築けていない監督に対し、プライベートをさらけ出さなければいけない義理は、選手にはありません。
どうしたら、選手は心を開いて、いろいろな背景を話してくれるようになるのか。考えた結果、「毎日の練習前、グラウンドで一人ひとりの選手に挨拶をしながら、『プラスひと声』をかけてみる」ようにしてみました。
監督がいきなり「選手のことを知りたいから」と、一人ひとりを監督室に呼び出してじっくり話す時間をつくり出したら、選手もきっと「何事だ⁉」とビックリするでしょう。しかし、「グラウンドで挨拶をしがてら」なら、お互いそんなに気負うこともありません。
それでも初めは慎重に、「挨拶プラスひと声」程度にとどめました。本当に簡単な、「今日も頑張れよ、頼むな」程度の、プラスひと声です。
声掛けを続けていたら選手の心の揺れがわかってきた
毎日、「挨拶プラスひと声」の声掛けを続けていると、なんとなく、目の動きや表情の変化で、選手の心の揺れがわかるようになってきました。さきほどもお話ししたように、私がいくら気さくに話し掛けたところで、肩書きは「監督」であることに変わりなく、選手にとっては上司です。ある程度の「圧」は感じるであろうコミュニケーションですから、目をそらしたり、つくり笑顔が引きつったりといった、何らかの「サイン」は出やすくなります。
ある選手は、とてもわかりやすいサインを出してくれました。
調子がいいときは「おはようございます! 今日も頑張ります!」と明るい声で、まっすぐ私の目を見て挨拶してくれます。しかし調子の悪いときは、声こそ明るさを繕うのですが、目は伏し目がちになります。そして私が彼の前を去って次の選手に挨拶をしているとき、チラチラと私のほうを見てくるのです。いかにも「監督、もっと話したいことがあるのですが……」と言いたげな視線です。
そんなときは、全選手に挨拶をした後、その選手のところに戻って、ゆっくりと話す時間をとるようにしていました。
「挨拶プラスひと声」を続けることで、選手一人ひとりが放つサインを受けることができるようになり、だんだんと自身の「背景」を話してくれる選手も増えていきました。