働きながらも妻を支えることに力点を置いた生き方を選んだ

「男は戦場、女は工場で働く」を、戦時中における男女の性別役割分業と位置付けると、令和6年の今は「男は仕事、女は仕事と家事・育児」から「男も女も仕事と家事・育児」に少しずつ向かいつつある過渡期といえよう。優三は、寅子の父・直言(岡部たかし)の工場で働いていたものの、寅子を支えることのほうに力点を置いていた。その柔軟な性別役割分業意識は、現代であれば、さほど違和感なく受容されるのではないだろうか。

優三以外にも多くの男性が登場し、作品を盛り上げている。高等試験を断念した優三の生き方を描く一方、寅子の学友で高等試験に合格した花岡(岩田剛典)や轟(戸塚純貴)、裁判官の桂場(松山ケンイチ)ら「高等試験勝ち組」の男性像も細かく描写されている。寅子の同級生・梅子(平岩紙)に対し、夫のみならず長男も見下していた時代背景を活写していたのも、衝撃的だ。

女性を対等と認識しているかどうか

スマートで万人受けする花岡と、どこか無骨で表現下手な轟。外面のイメージとは異なり「女ってのは、優しくするとつけ上がるんだ。立場をわきまえさせないと」との女性蔑視発言をした花岡に対し、轟はただちに言葉の撤回を求め、激しく反論した。寅子の思いを知りながらも、故郷に戻って、別の女性と結婚するのを決めた花岡に対しても、轟は「お前のやっていることは、いずれも侮辱する行為なんじゃないのか」と追及する。以前は差別的発言を繰り返していた轟は、実は女性を対等と認識していたことが浮き彫りになるシーンだ。

妻には家庭に入ってほしいとする花岡の考え方は、当時はごく普通だった。轟の剣幕に「やっと掴んだ弁護士の道を諦めて嫁に来てほしいと言えと? もし、俺についてくると言われたら、大勢の人の思いを背負った彼女の夢を奪うなんて、俺にはできない」と答えた背景には、寅子が合格するまでの苦労を十分に知っているがゆえに、自分の価値観なんかで職を奪うわけにはいかない、との思いが見え隠れする。

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