妻は「無能力者」とされた時代

当時は、明治時代に始まった家父長制が浸透し、女性は結婚すると男性の家に入るという意識が強く残っていた。ドラマの開始直後の回で取り上げられていたように、妻は「無能力者」とされ、夫の庇護のもと、責任能力や就労が制限されていた。

結婚しても、夫婦は平等ではなく、夫が圧倒的に力を持っていた明治民法の時代。そうした中、妻に好きに生きていいとの言葉をかける優三は極めて珍しかったに違いない。女性が抑圧され、とかく男性よりも下に見られていた時代に飛び出した、優三の出色な言葉に共感した現代の視聴者は、男性と女性のどちらが多いだろうか。

「妻をサポートする夫」という立場を受け入れた

寅子本人はもちろんのこと、両親も「その手があったか」と驚いた、家族同然の元書生・優三との結婚。弁護士になっても、案件の依頼がなく、あっても男性にお願いしたいと難色を示され続けた寅子の社会的地位・信頼を向上させるため、優三が自分との結婚を提案した。すると、寅子から「優三さんも社会的地位が欲しいと?」と逆質問を受けた。

当惑しながらも「独り身でいる風当たりの強さは男女ともに同じ」と答える優三は、自分が果たせなかった弁護士への道を実現させた寅子を間近で支えることで、自らの夢を寅子越しに映そうとしていた。

親権を巡る裁判で勝訴したとはいえ、依頼人の嘘を見抜けず、落ち込んでいた寅子にチキンを一緒に食べようと誘う優三。「全てが正しい人間はいないから」と励ました上で、思いを率直に伝える。「僕は寅ちゃんが高等試験を合格するか、諦めるかするまで受験を続けようって決めていた。つまり、僕は寅ちゃんに自分の人生を委ねていたんだ」。寅子が合格した時点で、叶えられなかった夢を寅子に託すことにしたのだ。

その夜のやり取りも印象深い。「どんな弁護士になりたかったの」と寅子から問われた優三は「弁護士になったら、法律の本を出したかった。僕が法律を学ぶ楽しさを知ったように、誰かにも伝えられたらなって」と答えた。寅子が「あら、本ならそのうち出せるわよ。『有名弁護士佐田寅子を育てた佐田優三の法律教本』なんてどう?」と屈託なく答えると、二人は笑い合う。妻をサポートする夫としての立場を受け入れた優三の決意や心意気が生き生きと伝わってくる。

裁判官が使うハンマー
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