エルピーダメモリをつぶした教訓を忘れてはならない

わが国は“エルピーダメモリ”をつぶした教訓がある。NEC、日立製作所、三菱電機のメモリー事業を統合したエルピーダは、一時、世界DRAM市場で約2割のシェアを確保した。ところが、リーマンショック後、スマホ向けのメモリー需要の高まりで追加の設備投資が必要な時期に政府や金融機関は支援を見送った。

2012年2月、エルピーダは会社更生法の適用を申請し、経営破綻した。アジア通貨危機後に韓国政府が銀行に働きかけSKハイニックスに支援を強化したのと対照的だった。その後、米マイクロン・テクノロジーはエルピーダを買収した。現在、広島県で同社はHBMなど先端製品の製造体制を強化している。

ラピダスに関して、民間金融機関が信用供与に二の足を踏めば、事業戦略の実行は遅れるかもしれない。わが国が世界のAI分野の成長加速に取り残される恐れも増すだろう。

自動車に次ぐ成長産業は未だに育っていない

リーマンショック後、わが国は航空機分野を自動車に続く成長産業にしようとした。しかし、2023年2月、“三菱スペースジェット(MSJ)”は開発中断に至り、わが国の産業政策は大きな修正を余儀なくされた。今回、ラピダスの計画が後ずれすると、わが国経済の回復に相応の悪影響があるかもしれない。

政府がラピダスの信用リスクを保証し、民間企業に融資を促すことは大切だ。ラピダス向け融資が増えれば、わが国のスタートアップ企業など未上場企業の資金調達に弾みがつく可能性もある。

足許、国内の金利上昇圧力は高まりつつある。その環境下でラピダスが迅速に投資資金を調達することは、投資家心理にプラスの影響を与えるだろう。高い成長が期待できる分野に投融資を行い、より多くの利得を狙う投資家は増えそうだ。それは、市場原理に基づいたヒト、モノ、カネの再配分の促進にもつながるだろう。

さまざまな議論があるが、ラピダスの事業立ち上げには相応の可能性があると見られる。2ナノ、さらに微細な半導体回路の形成に関しては、現時点で世界に量産できる企業はない。ラピダスは、IBM、IMEC、ASMLなど世界の主要企業などと連携し、未開の市場(ブルーオーシャン)の開拓を目指す。

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