ホームベーカリーもこうした「生活者の実感」から支持されたヒット商品。ホームベーカリーは2万円程度と安くはないが一度入手すれば何種類もパンがつくれる。焼きたてのパンは格別だし、ママ友お茶会の手土産にもなる。レシピ交換すれば話も弾む。費用対効果が抜群の商品なのである。そこでホームベーカリーの別冊を作ったところ、こちらもヒット。現在までに3冊出版されている。

「読者にどんなパンが焼きたいか聞いてみたところ、パンの名前ではなく『ポールで売ってるようなパン』とお店の固有名詞を使った言い方をしたんです。だから僕らは人気のパン屋さんに頼み込んでレシピを教えてもらい掲載することにしました。『○○みたいな』の○○は読者の気分で次々と替わりますが、この固有名詞のキーワードさえ旬であれば、すでにホームベーカリーを持っている人に対しても、常に新鮮さを保つことができる。弊誌が同じ商品やショップを、利用法や楽しみ方をいろんな角度で伝えながら、繰り返し取り上げる理由も同じです」

こうした仕掛けと“現場ありき”のポリシーが徹底している「マート」は、文字通りの読者参加型雑誌でもある。誌面に積極的に登場する「読者会員」(約3000人)とアンケートや情報提供、モニターなどを行う「ウェブ会員」(約1万6000人)という2つの組織を持っていて、誰でも参加可能なのが特徴だ。

「初期には登録するとおまけがもらえる、といったキャンペーンをしたことがありましたが、単に幽霊会員を増やすだけで失敗でした。コミュニティの質やロイヤルティを下げるので、今では書き込みに応じてポイントが貯まったりするようなことも行っていません。来る者拒まず、去る者追わず。読者を囲いこまず、新鮮な水がどんどん流れる川のようにしたい。池の水はいつか淀んでしまいますからね」