発達障害の診断が増え続けている背景

さて、ストーリーに登場するハナさんは、自分の身に起きた不調の原因が分からず、現在の困りごとは発達障害に起因すると考えていました。

発達障害という言葉が広く認知されるようになって長い時間が経ちますが、診断者数は年々増えています。文部科学省が発表した資料によると、発達障害と診断される子どもの数は2021年の時点で15年前の約16倍にも増加していたそうです。

大人の発達障害も同様に増え続けていると言われていますが、私はそのなかには「トラウマ」が原因で発達障害と似た症状を示している人も一定数いるのではないかと考えています。

トラウマ関連疾患では、交感神経や背側迷走神経の働きを適切な覚醒レベルに調節することが難しく、過覚醒・低覚醒が起きやすくなる、というのは先ほど解説した通り。神経系が発達する幼少期、あるいは一度発達した神経系が再構築される思春期に慢性的なトラウマ経験を受けると、神経系の発達が阻害されてしまい、症状が起きやすくなるのです。

一方、先天的な特性ともいえる発達障害は、定形発達の人よりもゆっくりと神経系が発達していきます。トラウマ関連疾患と発達障害、いずれにしても神経系の誤作動により症状が起きるため、両者とも近しい言動が目立つのです。

原因がわからず、自分を責める患者たち

また、幼児期に家庭内暴力や面前DV、身体的な虐待やネグレクト(育児放棄)にともなう養育者の頻回の交替といった慢性的なトラウマ体験にさらされて愛着の形成に失敗すると、児童の一部は落ち着きがなかったり、衝動的だったり反抗的な言動をする場合があります。

これもADHD(注意欠如多動症)に似た症状ですよね。こうした被虐待児に表れる一連の症状を「第四の発達障害」と定義づける研究者もいるほどです。

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そして、患者さん本人ですら、現在の失調は過去のトラウマが影響していると知らないことも多く、さまざまな不調に対して自分のなかで何が起こっているのか分からないままに、人知れず孤独を覚えている人もいます。なぜみんながこなせる日常を自分はまっとうに送ることができないのか、理由の分からない不調はなぜなのか、頑張りが足りないのではないか……。そうして自身を責める人もいるのです。