先天的な「気質」と後天的な「性格」は別
私たち精神科医は、生まれ持った「気質」と、生まれ育った環境で形成される「性格」を分けて考えています。そして、環境により出来上がった後天的な「性格」は想像以上に現在の言動に表れます。
極端に打たれ弱い、怒りっぽい、情緒不安定、集中力がない……など、生まれ持った気質だと思っていたものも過去の経験によって出来上がった性格かもしれません。それがトラウマによって作り上げられたもので、日常生活に困難をきたしているのであれば症状として診断されます。
2018年には、慢性的なトラウマ体験を原因とする疾病「複雑性PTSD」が、世界保健機関(WHO)の定める疾病分類「ICD-11」に登録されました。複雑性PTSDには厳密な診断基準がありますが、たとえその基準すべてを満たしていなくても、現在の症状が過去のトラウマ体験が原因となっているのであれば、適切な治療やアプローチによって状況をよくしていくことができます。
過去は変えることはできません。しかし、トラウマを過去の亡霊として終わらせ、辛かった体験が今後の自分の人生に影響しないようにすることは可能なのです。