一人飲みがよくない医学的な根拠とは
間違い6 お酒を飲んではいけない
日本では、酒を「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」が常識になっています。私がもし、「少量の飲酒くらい、車の運転を認めるべきだ」と主張したら、“暴論”として日本中からバッシングを浴びるでしょう。しかし、よく考えてみてください。
例えば、私たちは、栄養ドリンクや洋菓子、料理などにも入っている微量のアルコールを知らないうちに摂りながら、車を走らせているケースもあるのです。要するに、認知能力や運動機能を失うほどのアルコールを摂取しなければ、車を運転できるわけです。海外でもフランスやオーストラリアのように、軽い飲酒なら、車を運転しても処罰されない国が少なくありません。
ところが、世界のトレンドに逆行し、日本の警察は権限拡大を狙ってか、飲酒運転の取り締まり強化にひた走っています。1999年に東名高速道路で起こった飲酒運転死亡事故を契機として、2001年には、「危険運転致死傷罪」が制定され、それに呼応するように、02年には酒気帯び運転の場合、罰則対象の基準が呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上から0.15ミリグラム以上に引き下げられるなど、酒酔い運転・酒気帯び運転が厳罰化されました。
その後も、酒酔い運転・酒気帯び運転の罰則は段階的に重くなり、警察は最近、朝にも「酒気チェック」を行うようになったため、ドライバーは、前夜の飲酒すら憚られる有様です。
そうした取り締まりの結果、23年の飲酒運転による死亡者数は、約110人にまで激減しました。
その半面、酒が飲めなくなったロードサイドの飲食店は、バタバタと潰れました。倒産が原因で、自殺に追い込まれた飲食店経営者も多いはず。飲酒運転規制で「外飲み」から自宅での「一人飲み」にシフトした結果、精神医学的には、アルコール依存症患者や自殺者が激増するリスクも懸念されます。飲酒運転規制のほうが、飲酒事故よりも死者を増やしていないでしょうか。
日本人の場合、「すぐに顔が赤くなる」といったアルコールに弱い人も多いため、飲酒の適量は個人差が大きいのですが、適度なアルコール摂取であれば、死亡率を下げたり、気力を養ってくれたりする効能も期待できます。実際に、世界中の多くの研究によって、死亡率は酒を全く飲まない人よりも、少量の酒を飲む人のほうが低いというデータが示されています。
飲酒量を横軸、死亡率を縦軸にすると、グラフは「J字」のカーブを描くので、「Jカーブ効果」といいます。最近では異論もありますが、酒が「百薬の長」であるエビデンスは、否定されていません。
実は日本も、1970年頃までは飲酒運転への罰則は緩やかなものでした。悪質な飲酒運転を擁護する気はありませんが、酒気帯び運転の行きすぎた規制のような“悪法”はいい加減、見直すべきではないでしょうか。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年6月14日号)の一部を再編集したものです。