円安が引き起こすインフレの危険性とは

では現状、円安が問題になっているのはなぜだろうか。まず、黒田総裁以前の第2次安倍内閣発足時の円高を考えてみよう。08年、リーマンショックが起こり、不動産抵当証券の価格を保つためにアメリカやイギリスを中心とする諸外国が金利引き下げなどの大幅な貨幣拡張を行ったのに対し、日銀は大きく貨幣拡張を行わなかった。結果、円が相対的に品薄になり、円が高騰したのである。

一方で、新型コロナウイルス禍では、反対のことが起こった。コロナ禍では人と人との接触が危険な状態になったので、生産や取引など経済活動が制限された。

困窮した国民を救済するために、バイデン政権下のアメリカ政府は、インフラ増強の目的も含めて、1.2兆ドルを超える財政拡張を行った。私は正しい施策だと思ったが、規模が大きすぎたきらいがあり、アメリカはインフレに見舞われた。結果、FRBが金利を引き上げ、アメリカは高金利、日本は低金利という大きな金利差のある構図になった。資金は金利の高いほうに流れるため、円安が引き起こされた。

このような国際金融情勢では、日本にはデフレよりもインフレに突入する危険が増していると私は判断する。消費者物価指数は24年3月時点で前年同月比2.7%増とインフレ目標を超えているし、輸入物価指数や企業物価指数も強含みである。金融政策の結果、日本はデフレの国だと信じているだけで、データを見て日本もインフレになるとわかれば、日本国民の物価上昇期待も変わるし、インフレを阻止する要因がなくなる。

私がインフレを心配しているのは、ブレトンウッズ体制崩壊後、日本の消費者物価が二桁の上昇率を示し、福田赳夫たけお蔵相(当時)が「狂乱物価」と表現した1974年と、現在の物価上昇パターンが類似しているからである。

リフレ派の浜田がインフレを心配するのはおかしいと思われるかもしれない。しかし、ケインズが言ったように、状況が変わったら意見が変わるのは当然のことなのである。

植田和男日銀総裁は、金利引き上げの副作用が過剰にならないようにしているのだろう。23年、アメリカのシリコンバレー銀行では金利の急な引き上げで有価証券の価値が下がり、預金者が一斉に預金を引き出す「取り付け騒ぎ」が起きた。

写真=アフロ
植田和男日銀総裁は、金利引き上げに慎重だが、インフレのリスクを考慮し対策すべきタイミングにきているだろう。

しかし、有価証券の取引が中心のアメリカの銀行に対して、日本の銀行は伝統的に融資による利ザヤを重視しているので、アメリカの投資銀行が陥ったような危険はなさそうだ。

日本経済研究センターのレポート「マイナス金利解除後の日銀の金融政策」はむしろ、金利引き上げで地方銀行や信用金庫の収益が圧迫されることが予想されるが、日銀は特別付利という追加の金利を支払い、収益を補填しているとし、追加金利の総額は26年度までに2500億円に達する見込みだという。インフレ対策としての金利政策が行える土壌はつくられつつあるだろう。

(写真=アフロ)
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