バッジを付けていないことを見咎めてきた人物

この点に関連して、些細だが、あまり愉快でない経験をしたことがある。

駐豪大使時代、アジア大洋州大使会議で一時帰国し、官邸での岸田文雄首相との意見交換に臨む直前だった。外務省としても首相とともに拉致問題に取り組む決意を示すべく、官邸に大使たちが赴く際には青色の「拉致バッジ」(ブルーリボン)を全員が背広のラペルにつけていくべしとのお達しが大臣官房から回っていた。

山上信吾『日本外交の劣化』(文藝春秋)

それだからだろう。官邸に向かう道すがら、省内のエレベーターに乗り合わせたチャイナスクールの某大使は、私が当該バッジをまだ付けていなかったことを見咎めてきたのだ。その昔、「中国は『懸念』と呼びましょう」と述べたその男だった。

あたかも紅衛兵が毛沢東語録を振りかざすかのような小姑の所業そのものだった。だが、矮小な言動はともかく、より重要なことは、バッジを付ける以上に外務省が拉致問題解決のためにどのような努力を日夜重ねているのかだろう。

中国拘留者の問題への対応と併せ、この点で世間が納得していないことをひしひしと感じている。

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