さて私の経験をもとに、場面別のNOの言い方を説明します。

まず無理無体な要求をしてきたクライアントへの対処法。これは、はっきりと「無理です」と伝えることが大原則です。これを曲げてはいけません。

そのうえで相手に理由を伝えるのです。「これは上司の判断です」「世間におけるルールにのっとって、これはできません」というように、あなたが絶対に変えられないものを理由として挙げましょう。「最近はこういう風潮ですので」というように「風潮」という言葉を使うのもいいでしょう。

そうすることで相手の顔を立てるのです。あなたでは絶対に変えることのできない理由だと知れば、「しょうがないな」となる確率が高くなると思います。

また、こちらが出した提案に取引先がNOと言ってきたので、再交渉をしないといけない場面もあるでしょう。NOに対してNOを伝えるわけです。

この場面では相手に「提案を断った結果、何が起きるか。どれだけ不利益をこうむるか。こちらの提案を受け入れればどれだけの利益を得られるのか」を伝えることが大事です。「本当にNOなんですか? YESと言った瞬間にこれだけ素晴らしい話が待っているのに」という言い方がいいでしょう。

こちらは仲間だと思わせたうえで交渉

取引先が締め切りを守らないこともあるでしょう。「締め切りを守ってください」と言っても、守らない。こんなときは、根本的に何か別の理由があることが多いのです。この仕事をやりたくないと思っていたり、この仕事そのものを納得していなかったり。そうした部分を察したうえで、「そこはちゃんと理解していますよ。でもこの局面でそれじゃあダメでしょう」と諭すような形でNOを伝えるようにしてみてはどうでしょうか。

単純にNOを言うだけではなく、相手の立場を考えることが大事だと思います。時には相手を持ち上げる。相手がこちらを味方だと感じてくれれば、変わることもあるわけですよ。

たとえば近隣住民で、ゴミ出しルールを守らない人がいたとしましょう。その人には、ひょっとしてその人なりの理由があるかもしれません。正面からNOを突きつける前に、その人の事情を推察してみましょう。

仕事の関係でどうしても朝に家にいないとか、家族が入院したりしているとか。そういう事情のある人でしたら、「これこれこのような状況だということはわかっていますが……」と伝えることで、相手は「ああ、理解してくれているんだ」という気持ちになり、あなたに対して仲間意識を持つ可能性が出てきます。仲間であるあなたからのNOなら、「わかりました」となる確率が上がると思います。

一方、行政・公務員相手に要求を通そうとする場合は、そのような方法を用いても無駄です。公務員というのは、ルールにのっとらないと動かないからです。たとえあなたの言い分が正しいとしても、公務員は「こういうルールですから」と言うだけです。直接言っても絶対に変わりません。

ルール順守を逆手に取りましょう。ルールは誰が決めているのか。それは行政ではなく、いわゆる世間様です。住民の代表である議会、住民の意見を伝えるマスメディアの力が絶大なのです。そこで「○○先生に相談しようと思います」「××新聞に知り合いの記者がいるんだよね」というように、具体的に議員やメディアの名を出すと、行政は動きます。

ルールを作る側からの言葉には、説得力があります。電車の中でイヤホンからの音漏れのひどい人がいたとしましょう。その人にNOを伝えるには、ルールを作る側、駅係員や車掌といった鉄道会社の人に言ってもらうのがいいのです。

とはいっても車掌が回ってこないことがほとんどでしょう。その場合の効果的な方法は、相手の目を見て「あなた、それを止めてください」と言うことです。「音がうるさいですよ」という一般論を伝えても、相手は「なんだ」となりますが、「あなた」という一言が入ると効くんです。相手も音漏れしていることに気づいているんですよ。正面から言われると「ああ、すみません」と止めることが多いと思います。

日本人はNOを言うことが不得意です。ですが、言わないといけない場面はたくさんあります。前述のように相手がどういう反応を示すかシナリオを作ったうえで、伝えてみてください。もうひとつ大切なのは、最初にNOを言うこと。日本人は、かくかくしかじかこうでこうで……と長々と話しがちですが、それでは結論が曖昧になって相手に真意が通じませんので。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月31日号)の一部を再編集したものです。

(構成=本誌編集部)
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