個人的には、記号的で人種を感じさせない日本の漫画特有のキャラクターの絵柄の強みもあると思う。歴史をかなり端折ってしまうが、ディズニーの絵柄を取り入れ洗練させたのが手塚治虫だった。そこに少女漫画の「24年組」を含む面々が目を大きく描くなど叙情的要素を加味し、心理描写がしやすくなった。
これが少年漫画のキャラクターの肉感的要素と合わさり、1980年代の「ロリコン」ブームなどを経つつ現在の美少女描写などに典型的に見られるスタイルを生んだ。「へのへのもへじ」的でありつつ万人が感情移入しやすい、ある種便利な絵柄が、海外でもゲームやアニメを通じて日本の作品が慣れ親しまれるようになった大きな要因ではないか。
――将来的に日本の漫画はさらに海外に広がっていく?
日本の漫画市場と比べて、例えば北米市場はまだ小さい。世界的にはスタートラインに立ったばかりのところではないか。気になるのは映像化される大人気作品か、マイナーなものか、というように流通の形が両極端になる傾向にあること。老若男女向けに多くのジャンルや表現がある豊かさが、海外人気の源のはず。それが日本国内市場の縮小もあり、先細りになることを懸念している。
アジアには日本のオタク文化を基に、先ほど述べた「便利」な絵柄の利点も生かして創作するクリエーターが既に多い。アメリカでも童話『不思議の国のアリス』に日本の漫画風イラストを付けたものがヒットしたのは、既に10年前。しかも描き手はフィリピンのイラストレーターで、日本のクリエーターは関わっていない。
海外の作り手とも協働しつつ、さまざまに異なる各地域の市場の需要に対応しつつ進出する「漫画・アニメ界のハリウッド」を日本が目指す必要性を感じている。