複雑な要因が絡まるヒトの寿命

平均寿命は、国の公衆衛生や社会情勢によっても大きな差が生まれます。

たとえば、近年エチオピアの平均寿命が3年延びた要因として、安全な水へのアクセス、女性の教育とジェンダーエンパワメントなどが挙げられています。同様にブラジルでの2年延伸は、政治、経済、医療保障、不平等の是正などといった、私たちが想像する要因とはまた別の課題が存在していることがわかります。

平均寿命は概して国民所得の増加と共に延伸しますが、同じような国民所得であっても想定される平均寿命と異なるパターンを示すケースが存在し、集団における健康や寿命がいかに複雑な要因が絡み合った結果であるかが想像できるのです。

逆に、日本のように国民皆保険制度に守られている国では、誰もが必要なときに、必要な医療サービスを受けられます。だとすれば、この先も過去120年のように倍化して、現在の平均寿命80歳から160歳になるのでしょうか。これも、否定も肯定もできない問いであることだけは確かです。

125歳が限界だろう…

1825年、イギリスの数学者でありアクチュアリー(保険数理士)のベンジャミン・ゴンペルツ氏は、ヒトの寿命には上限があることを説きました。年々指数関数的に増加する死亡リスクとの関係からです。

2016年には、遺伝学のヤン・ヴィジュ博士らのグループが、最長死亡年齢の解析結果から「125歳がヒトの寿命の限界だろう」と述べています。

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ちなみに、現在の最長寿記録は、1997年に他界したフランス人女性ジャンヌ・カルマンさんの122歳5カ月です。そうしたこともあり、私たちは125歳前後の寿命の壁を意識しがちですが、これらはあくまでも過去のデータに基づくものであることを忘れてはいけません。

何しろ1900年の世界では、日本人の平均寿命が80歳に及ぶことなんて夢にも想像できなかったでしょうし、今後、生物学的な老化抑制によって寿命を選択できる世界になれば、誰もが80歳の平均寿命を「そんなに短命だったのか」と思うでしょうから。それほどまでに、大きな革新が過去をぬりかえていくのです。