1人あたり年間4着ほどのアイテムを購入している計算が成り立つ

今度は市場を民間企業に移して、ビジネスで使える「@変換」をしてみます。

ファーストリテイリング社が運営するアパレルブランド「ユニクロ」を知らない人はいないでしょう。日本だけでなく海外にも展開しており、海外店舗はアジア圏を中心に1600店以上を展開。ファストファッションブランドとしては、ZARA、H&Mに続く世界3位の売上を誇る世界的ブランドです。

いまや国内売上よりも海外売上のほうが高いことでも有名なユニクロですが、だからといって国内売上が低いわけではありません。2023年度の国内売上は約8904億円で、日本のアパレル業界トップを独走しています(2023年8月期連結決算)。

日本の人口をざっくり1億人として計算すると、1人あたり年間約8900円です。

高いでしょうか、安いでしょうか。この数字の意味を理解する頃には、ビジネス現場で「@変換」が使えるようになっているはずです。

ユニクロでは季節ごとに数多くの商品が展開されていますが、1着あたりの購入単価が約2000円とすると、

8900円(1人あたり購入額)÷2000円(購入単価)=4.45

つまり、1人あたり年間4着ほどのアイテムを購入している計算が成り立ちます。

さらに考えてみると、ワンシーズンに1アイテム、あるいは夏と冬など季節の変わり目に2着ずつ商品を購入しているという仮説が立てられます。

夏にはデザインTシャツや定番のデニム、冬にはヒートテックなどの防寒着やジャケットなどと考えると、あながち間違いではないかもしれません。さらに安価な肌着類を購入している場合は、3カ月に2着ずつというケースもあるでしょう。

では、あなたがユニクロ事業の担当者なら、この数字をどう活かしますか?

次シーズンの商品開発をする場合、どのような戦略を立てれば効果的でしょうか?

数字から分析できるのは、定期的に商品を購入する層がほとんどということ。それならば、これまでどおり廉価でシンプル、かつ高品質な人気アイテムをそろえていくべき、とラインナップの方針が考えられるでしょう。

下手に新しさを狙って、凝ったハイブランド商品ばかり開発しても、普段からユニクロを利用しているユーザーにとっては「確かに品質はいいけど、この値段を出すならほかのハイブランドでいい」ということになりかねません。

一方で、価格は抑えたまま、既存ラインナップのデザイン追加や品質アップデートをする方向で商品開発に取り組めば、「新しいのが出てるなら買ってみようかな」と売上が向上する可能性も考えられます。

「@変換」を活用すれば、顧客のニーズや傾向を掴むこともできるのです。

年商100億円の出版社の人材の見極めにも応用できる

さらに市場規模を狭めて、年商100億円の出版社でも考えてみましょう。

100億円を日本人の人口1億人で「@変換」すると、1人あたりの年間購入額は100円になります。ですが、100円で買える本はほとんどありません。このような場合は、本の平均単価から逆算すると数字を割り出せます。

本の平均単価が1000円と仮定すると、100億円÷1000円=1000万冊。

年間1000万冊の本が売れていることが計算できます。これを1億人で割ると、

1億人÷1000万冊=10人

「国民の10人に1人が年間1冊購入する本を発行する出版社」

ということが導き出せました。

生活必需品ではない本を「10人に1人が買っている」という状況はかなりのものです。日本には数多くの出版社が存在しますが、実際に売上100億円を超える出版社は全体のたった1%に過ぎません。

反対に考えれば、年商100億円を維持するには「10人に1人が買っている出版社」であり続ける必要があります。そのためには、コアな読者向けの本ばかり作っていては成り立ちません。普段本を読まないライト層も興味を示す本を作らなければならないでしょう。

たとえば、SNSで有名な料理研究家のレシピ本や楽して痩せられるダイエット本、最新のコスメをまとめた動画付きのメイク本など。編集者は幅広い層の購買意欲を掻き立てるような企画を求められるはずです。

また、この数字は会社が求めている人材の見極めにも応用可能です。

年商100億円の出版社であれば、最新のSNSや世間の流行を幅広く追える「本を読まないライト層」に寄り添った人材が重宝されると読み取れます。

一方で、年商10億円の「100人に1人が買う出版社」や年商1億円の「1000人に1人が買う出版社」であれば、ジャンルに特化したコアな読者がメイン層の可能性があるでしょう。

ゲームや野球、科学など、専門知識を持っている編集者が必要とされるかもしれません。

「@変換」をするだけで、こんなにも企業の情報を読み込めてしまうのです。