先行投資で工場建設を決めた「従業員の言い争い」

前述したが、ラスクはベーカリーにはもとからあった商品だ。ガトーフェスタハラダは売り上げが少ない時に乾坤一擲の勝負で工場を作った。考えてみれば、日本中のパン屋さんだって、売り上げ200億円企業になるチャンスがあった。しかし、やらなかった。

原田はそれに対して、ぽつりとこう洩らした。

「当社が大きな投資をしたのは従業員の言い争いが嫌だったからです。あの頃、商品が豊富に作れなくて夕方になると店舗のスタッフと通販のスタッフが品物の取り合いで口論を始めたのです。それがほんとにつらかった。

特にお中元、お歳暮の時期はつらかった。当時はファックスでも通販の受注をしていたのですが、忙しくなってくると、ファックスの線を抜いちゃおうとする店舗スタッフもいたのです」

「本当に情けなかった」

「12月になるとお歳暮の注文が来るのですが、月の生産量はわかっているから、12月5日前後になると、もう注文をお断りしないといけなくなる。注文は受けるよりもお断りするほうがはるかに大変なのです。それはお客さまも怒りますよね。店の雰囲気は悪くなるし、お客さまからは怒られるし……。

『解決には量産するしかない』。設備投資にお金がかかりますし、借金しなくてはいけない。もしかしたら返済ができないかもしれない。しかし、そういうネガティブなことは考えないでとにかく量産するしかないと工場を建てたのです」

原田は「本当に情けなかった」と呟いた。

ガトーフェスタハラダが拡張したのは会社の成長やキャピタルゲインを求めてではない。社内の不和をなくし、雰囲気をよくすることが大きな決断を行うきっかけのひとつだった。群馬県のどこにでもあるパン屋さんが飛躍するきっかけは経営戦略に則ったものではなく、真情あふれる経営者のやさしさだったのである。

撮影=プレジデントオンライン編集部
まだ売り上げが小さい時期に工場建設に踏み切ったことで今があると振り返る原田社長。「会社の成長よりも社内の雰囲気をよくしたかった」
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