簡単につくれるが、量産が極めて難しい

「そんな状態が2年くらい続いたら、やっと売れるようになってきて、店でも群馬パンセンターで作りきれなくなったので、決断して土地を買いました。そこに設備を入れ、工場を建てて自社製造を始めたのです。工場用地を買ったのは売り上げが3億円しかなかった頃で用地代が5億円。大きな決断でした。工場を建てたのは2002年のことです」

ガトーフェスタハラダのラスクが売れるようになると、高崎近辺の洋菓子店もいっせいにラスクを作り始めた。ラスク自体の製造は難しくない。フランスパンをカットし、バターオイルをかけ、砂糖を載せて焼成する。フランスパンを焼くときにもバターが入っているので、バターの使用量は多い。

だが、量産するには解決すべき問題がある。それはラスクを焼成する際に使うトンネル窯に投資できるかどうかだ。

一般のパン販売店が使用しているのは固定窯だ。値段はトンネル窯よりも安い。だが、固定窯はラスク生地を入れ、焼きあがるごとに取り出さなくてはならない。トンネル窯であれば、ラスク生地を入れたら自動的に焼きあがって出てくる。

「ラスクに穴が空いている」という苦情にも対応

ただ、一軒のパン販売店が単価の安いラスクを作るためにトンネル窯を導入するのは簡単なことではない。さらに、問題はある。ラスク製造は大量のバターを使う。生乳を遠心分離器にかけると脂(バター)と乳清が出る。乳清を廃棄する際、脂分が残っていると下水が詰まってしまう。

ラスク製造では乳清を処理したうえで廃棄する設備(グリストラップなど)がいる。ラスクは製造は簡単だが、量産するとなると設備に大きな費用がかかる。それもあって、参入してきたパン販売店は次々と撤退していった。

原田は「量産に成功した後も商品の改良を続けています」と語る。

「当初、お客さまからのクレームはラスクに穴が空いているというものでした。ご存知のようにフランスパンってもともと気泡があるんです。それをラスクにすると大きな気泡の穴のところは食べられない。損をしている気になるんですね。そこで気泡がなくなるようにフランスパンの内層を食パンみたいなきめの細かいものにしました。

また、フランスパンって表面にクープというナイフで切ったような筋を入れるのですが、そうすると、クープを入れた部分が持ち上がって飛び出てしまいます。断面が円形ではなく、割れやすい形になる。そこでクープを入れず、断面の大きさが均一になるような円柱のようなパンを焼くことにしました。ラスクの材料になるフランスパンは本店と高崎の店で売っているのですが、食感が柔らかいと評判になり、1日に200本くらいは売れます」

「原田」提供
パンの副産物であるラスクは割れやすく、量産には向かない商品だった。しかし設備投資と品質改良を重ね、現在は1日で150万枚のラスクが生産されている