上場企業に対する信頼はなぜか絶大
それに人材についても、別の意味で危ういと思います。たしかに働く側の意識として、上場企業なら安心という気持ちもわからなくはありません。しかし、そういう動機で応募してくる人が優秀かというと、かなり怪しい。就職先に安心・安定を求めるのは、がんばって成果を出そうというより、最低限の仕事をして給料だけもらえれば十分という人が多いのではないでしょうか。そういう人の比率が高い会社が成長するのは難しそうです。
あるいは社会全体としても、上場企業に対する信頼はなぜか絶大です。我々も従業員のために住宅を会社として借り上げ、家賃の一部を給料から天引きする制度を導入していますが、家主によっては断られることがあります。理由は「上場企業にしか貸さないと決めている」から。まったく意味のない線引きだと思いますが、世の中の認識とはそういうものかもしれません。この思い込みも変わってほしいものです。
だから、上場をゴールにしてしまう企業が多いのでしょう。幅広い投資家からお金を集めて事業を拡大するというより、とりあえず社会的ステイタスを獲得できればいいというわけです。だとすれば、成長を望むべくもありません。
上場企業の4分の1は親会社か大株主の強い影響下にある
そしてもう一つ、上場企業が多い理由として考えられるのが、「親子上場」の多さです。親会社が50%以上の株を持つ子会社が上場しているケースで、世界ではあまり例がありませんが、日本の株式市場ではよく見られます。東証によれば、上場支配株主(議決権のある過半数の株式を保有する株主)が30%以上保有している上場企業は、日本が上場会社数の16.84%であるのに対し、米国1.41%、イギリス0.2%、フランス5.95%、ドイツ5.66%となっています(東証作成資料「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」2020年1月7日より)。
また東証によれば、上場子会社数は2022年時点で258社と4年間で18%減少しましたが、20%以上50%未満の株を持つ大株主がいる上場企業は2022年時点で958社もあります(同2023年3月22日より)。東証の上場企業約3900社のうち、4分の1もの企業が親会社または大株主の強い影響下にあるということです。