「親会社からの天下り用のポスト」のためではないか
なぜ子会社・関係会社を上場させるのか。それによって親会社や大株主である企業の企業価値が向上するなら、意義もあるでしょう。しかし考えてみれば、その子会社等が本当にいい会社なら、100%持っていたほうが自社の利益に直結するはずです。わざわざ上場して、不特定多数の一般株主に利益を分配する必要はありません。逆に自社にとってお荷物なら、すべて売ってしまえばいい。株式を保有しておく必要はないし、まして大株主であり続けて上場させる意味はないでしょう。つまり合理的には説明がつかないところで、それ以外の理由があって親子上場を果たしているとしか思えないのです。
それは何か。長く野村證券に勤め、特に複数の大企業を担当していた私の感覚では、親会社からの天下り用のポストを作るためだと思います。
例えば社長がある社員に、「あなたは当社の取締役にはなれないけど、こういう子会社を作ったから、そこの取締役はどう?」と打診する。そのうえで「そこで上場をめざしてもらってもいいよ」とモチベーションの維持に努める。その結果として上場に至ったというケースが多いのではないでしょうか。その後、子会社取締役の席は親会社の人事に組み込まれていったのです。
親子上場の子会社株を持つことにはデメリットがある
一方で、一般の投資家が親子上場の子会社の株を持つことにはデメリットがあります。それは、親子の間で利益相反が生じやすいことです。しかも親会社が50%以上の株を持っている以上、一般株主に議決権はないも同然です。また、親子会社間で仕事上の取引がある場合、力関係から考えると、子会社が親会社に有利な取引条件を飲まされている可能性は十分にあります。つまりは、子会社の利益を親会社に吸い取られているということです。
例えば、約200億円の銀行借り入れをしている子会社が、親会社に500億円もの預け金をして、その借入金利より低い金利しか受け取っていない事例もありました。また子会社の売り上げの90%超が親会社向けであり、親会社の工場に過ぎない子会社さえあります(さすがに、このように事業を親会社に依存している子会社は、現在の上場基準では新たに上場はできませんが)。
あるいは世間の批判に耐えかねて、子会社の上場を廃止して親会社に吸収するという決断を下したとします。その場合、親会社がTOB(株式公開買付け)を実施して子会社の株を少数株主から買い取ることになります。
ただその買い取り価格は、親会社にとっては安いほどいい。子会社の少数株主にとっては高いほうがいいのですが、親会社の提示した金額に従わざるを得ないでしょう。これは、「強圧性」の問題にもつながります。