M&Aでは自社株を使うケースもある

ところでM&Aでは、自社株を使うケースもあります。株式交換と呼ばれる手法で、相手企業の全株を自社株と交換することで、完全子会社にするというものです。その名目で大量の自社株を長く保有することも問題ですが、もう一つ別の問題もあります。

株式交換は、買う側の株のバリュエーションが買われる側より高いことが大前提。自分より価値の低いものを買って統合することで、価値を引き上げることができるからです。

ところが実際には、逆のケースも少なくありません。例えば、自社株のPBRが0.5倍で、相手企業の株のPBRが2倍だったとします。この両者を交換して自社の100%子会社として連結したとたん、相手企業のPBRは0.5倍で評価されることになります。

例えば時価総額500億、純資産(自己資本)1000億円、つまりPBR0.5倍で発行済み株式数100株(株価5億円)というA社があるとします。そのA社が、時価総額100億円、純資産50億円)、つまりPBR2倍で、発行済み株式数10株(株価10億円)というB社を株式交換によって完全子会社化する場合を考えてみます。

買収企業側が価値を損なってしまう場合も

このときA社は、B社株主にA社株式を新たに20株(時価総額100億円相当)発行し、それと引き換えに発行済みのB社株式10株(時価総額100億円相当)を取得します。A社の連結純資産は1050億円になり、発行済み株式数は120株となりました。

ここから、1株あたりの純資産(BPS)を計算すると、1050÷120=8.75億円。A社株式のPBR0.5倍という評価が変わらないとすれば、株価は8.75×0.5=4.375、つまり5億円から4.375億円に下落するわけです。

丸木強『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中公新書ラクレ)

自社、すなわち買収企業の株主にとっては、価値の毀損でしかありません。

これは、現金でM&Aを行う場合で考えればわかりやすいでしょう。PBR0.5倍の企業がPBR2倍の企業を現金で買収することは、PBR2倍に相当する現金を流出させることを意味します。ところが買収後に連結子会社となった対象企業のPBRが0.5となれば、やはり買い手企業の価値は毀損されたことになります。

要は、M&Aをするにしても、その前に自社の株式の評価を高めておくことが肝要なのです。理論的には、M&Aを行うことによって買い手企業のPBRなどの株価のバリュエーションが大きく上昇すれば問題ありませんが、そのような実例はほとんどないでしょう。

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