男が抱える「大黒柱の辛さ」もわかった

私は就職して2年目から一人暮らしをしていました。「結婚なさい。見合いをしなさい」と言われなくてすむからです。一人暮らしはあまりにも快適で、何とかそれを続けたいという思いが募りましたね。業務成績はあんまりよくなかったけど、でもリクルートの待遇は上々で、転職したら、給与が半減するし、何とか粘って踏みとどまったんです。あとから思うと、ほんとに辞めなくてよかったですね。

(本人提供)

それ以降に感じたのは、仕事に育児に、時間が圧倒的に足りないということ。周りに何を任せるか考えていると、一方で、全部自分で成し遂げたいという気持ちが頭をもたげだして、ジレンマに陥ったりしました。

じきに、私の後に続く女性たちが現れ、同じ悩みに直面するだろうから、参考になる前例を作っておかなきゃという気持ちがモチベーションになったかな。

そのうち、私は、一人親となります(編注:夫を不慮の事故で亡くされた)。

後輩の女の子たちのこと、「彼女らはいつでも辞められていいな」って羨ましく眺めたりして、そんなふうに感じる自分に驚いて。そのおかげで、男性が抱えている「家族の大黒柱」という義務感の重さもよく理解できました。

後輩にどんどん抜かれていく…ここにいる意味があるのか

幸いなことに編集の仕事で働き続けている女性の大先輩を取材したり、知り合ったりする機会がよくありました。私より上の女性たちはさらに厳しいいばらの道を歩んでいて。この人たちの苦労を思えば、私なんて恵まれてる、と力づけられたりもしました。

職場では部下がどんどん成長して、私はチーフなのに、彼らに抜かれていく。自分がここで働き続ける意味あるの? と悩んだけれど答えは出ないし、「そんな答え、出さなくていいや」と開き直っていました。

そんな悶々とした状態にケリをつけてくれたのが、会社でした。リクルートには早期選択定年制という仕組みがあって、当時は38歳で辞めると退職金がたいそう割り増しされたのです。本当に良くしてくれた直属の上司が、「自分も異動の時期(だからこれ以上フォローできない)。今ならあなたがいい形で退職できるようにはからってあげられる」、と言ってくれて。私は5秒だけ考え、「退職します」と答えました。転職先も決めてなかったのに。