イーロン・マスク氏の報酬は豊田章男氏の約700倍

その豊田章男会長の2022年度の役員報酬は、前年比45.8%アップの9億9000万円であった。

内訳は、職責や成果を反映した「固定報酬」が前年より6000万円多い2億6400万円、賞与と株式報酬からなる「業績連動報酬」が2億5400万円多い7億3500万円だった。これはトヨタの日本人の役員として過去最高の金額だという。

一方、テスラのマスク氏は2021年に6500億ドルの時価総額目標を達成したことを根拠に、約束の成功報酬である2020万株のストックオプション(ピーク時に8兆円相当、株価が下がった現在は7兆円)を要求している。

これは2018年に取締役会と株主が承認した「10年型の業績連動報酬」であり、裁判所が無効判決を出したものの、控訴中のマスク氏には受け取る権利があるだろう。(なお、マスク氏は2018年から1ドルの報酬もテスラから受けていない。)

だが、EV需要の読み誤りや、自らの首を絞める大幅値引き、中国で台頭する競合に対し効果的な対抗策を打ち出せないことで、テスラの時価総額がピーク時より7000億ドル(約108兆円)以上もダダ下がりする中、年換算で7000億円相当の報酬が将来的に正当化できるのか、という議論はあるだろう。

豊田章男氏の約10億円と比較して、約700倍と、文字通り桁違いであるからだ。

テスラは「成長なき成長企業」となってしまった

イーロン・マスク氏は、「イノベーションを生むために巨額報酬は正当化される」と主張する。

だが、少なくとも過去10年ほどのスパンにおいて、イーロン・マスク氏は市場を長期的に見極める力において、豊田章男氏にかなわなかった。

さらに、テスラが次なる「メシの種」として育てている「完全自動運転(FSD)のロボタクシー」「安価モデル発売」「インドなど大きなフロンティア市場」などの切り札は、いずれも現状では販売回復の特効薬にはならないと思われる。

また、4月24日の決算発表でマスクCEOが、詳細不明の廉価モデルを2025年に発売し、今年8月に自動運転タクシー「サイバーキャブ」を発表するほか、テスラをAIおよびエネルギー貯蔵バッテリー企業に変革してゆくと語ったことで株価は翌日に12%も上昇し、時価総額は4月26日現在で5333億ドル(約83兆円)まで戻しているが、ウォール街が具体性に欠ける「夢」にいつまで賭けられるかは不明だ。

投資情報サイトの米バロンズは4月3日付の記事で、「投資家にとり大切なのは企業の成長が継続することだ。2023~2026年のテスラの売り上げ・収益成長はほんの数カ月前の予想である25%から15%に引き下げられている。一方、トヨタの同期間の成長予測は20%だ」と指摘した。

金融大手の米ウェルズ・ファーゴでアナリストを務めるコリン・ランガン氏が3月に指摘したように、テスラは「成長なき成長企業」となってしまった。

これに対し、トヨタは短期的な大化けはないかもしれないが、今後もハイブリッド車などで堅調な成長が続くと予想される。

こうして見ると、豊田章男氏は株主にとって極めて長期的にコスパのよい経営者であると言えるだろう。

安定して成長と収益をもたらし、役員報酬も年間10億円と低めであるからだ。

時価総額が急落中であるのに年換算7000億円の報酬をもらうマスク氏は、彼以外のテスラ株主にとっては必ずしも長期的なコスパが良くないかもしれない。

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