「EVがいずれ行き詰まる」のをイーロン・マスク氏自身も認識

EVはいまだ価格が高く、不便で、運転時や再販時のリスクも山積し、多数を占める一般消費者は手を出していない。そのため、普及がいずれ行き詰るのは自明のことで、聡明なマスク氏自身も、おそらくは少し前から認識していたのだ。

特に、バッテリーが重すぎる、充電時間が長すぎる、厳寒に弱いなどの構造的なハードの問題は、ソフトで改修できない欠陥だ。

その文脈で考えると、バイデン政権がEVシフトを推進した初期にテスラの時価総額がトヨタの5倍に近づいたのは、宇宙開発にまで広がる壮大なビジョンを持ち、金融からクルマまで、マルチな経営の才能を開花させたマスク氏の「魔法」にウォール街が幻惑されていたからではないだろうか。

豊田章男氏の「地に足のついた経営」

それに対し、豊田章男氏率いるトヨタは、ハイブリッド車というすでにある技術をさらに磨くという、いかにも地味な手法を採っていた。おまけに、EVという錦の御旗に逆らう反動勢力のようにレッテルを貼られ、メディアから叩かれた。

だが豊田章男氏は動じなかった。彼は、こう語っている。

「私が出るしかない。『はい、私が責任者です』と名乗り出ることで、叩かれるのは私になる。そうすれば、うちの現場は元に戻れます。現場はちゃんと動くんです。大切なのは現場をしっかりと動かすこと」

EVに代わってハイブリッド車が選好されるようになった今、豊田章男氏の言うように現場がしっかり動き、トヨタはハイブリッド車の需要拡大にしっかり応えている。4月17日に看板ハイブリッド車である新型プリウスの品質不具合で生産を停止し、全世界で21万台以上をリコール。2023年度の純利益まるごとに相当する110億円を費用として計上するなど、問題なしとは言えないが、テスラと比較すると「地に足がついた経営」と言えよう。

トヨタの豊田章男氏
写真=AFP/時事通信フォト
豊田章男氏の「地に足のついた経営」が評価されている(CESのプレスカンファレンスでスピーチする豊田章男氏、2020年1月6日)