大村氏は「推進する」と明言し、「交通利便性の向上や地域活性化につながり、静岡のメリットになる」と強調した。これに対し、鈴木氏は「環境との両立を図りながらリニアを推進していく」とし、川勝知事と同じレトリックを用いて、その手法を踏襲する考えをほのめかせた。川勝氏は、リニア推進派を自称しながら、「大井川の命の水を守る」「南アルプスの自然を守る」などとして静岡工区の着工を認めてこなかった。
押さえるべきは、こうした川勝氏の水資源や環境保全を重視する姿勢だけでなく、JR東海への対決モードが静岡県民から一定の支持を受けていたという現実だ。県内にリニアの駅を造らないだけでなく、新幹線のぞみを止めない、静岡空港に新幹線の駅を作らない、といった不満が底流にあるからだろう。
自民党情勢調査では鈴木40%、大村29%
大村氏は4月12日に自民党県連に推薦願を提出し、連合静岡、立民党県連などにも支援を求めた。鈴木氏は自民、立民、国民民主各党の県連、連合静岡に推薦・支援を求めた。これを見れば、両氏の政策にさほど大きな違いがないともいえる。
連合静岡と国民民主党は17日、立憲民主党も19日に鈴木氏の推薦を決定する。「川勝与党」が鈴木氏を推す形になった。対する自民党県連は、両氏からの聞き取りを経て、18日に大村氏の推薦を内定した。22日に県連で機関決定し、党本部に上申する。
自民党県連が短兵急に大村氏推薦でまとまったのは、鈴木氏はリニアに反対した川勝県政の継承候補だという認識や警戒感が急速に広まったためだった、といわれる。
自民党本部が4月13~14日に実施した静岡知事選情勢調査では、鈴木氏40%、大村氏29%、不明・未定31%だった。この11ポイント差をどう見るか。自民党県連は大村氏がこれから知名度を上げて行けば、1カ月後には鈴木氏を十分追い上げると判断したのだろう。
岸田政権として負けられない選挙
今回の県知事選は、大村、鈴木両氏ともに与野党相乗り推薦を目指したが、各組織がそれぞれ候補一本化を図ったため、結果として与野党対決の様相を呈することになった。
自民党本部がこのまま静岡県知事選で大村氏の推薦を決定すれば、岸田文雄政権として負けられない選挙に位置づけられる。年内ともいわれる次期衆院選、25年7月の参院選の行方を占う知事選になるからだ。
細野氏は、鈴木氏を支持するとしてきたが、自身の次期衆院選なども見据えて大村氏支援に転じる考えだ。上川陽子外相(衆院静岡1区)も、「ポスト岸田」の有力候補として選挙戦に駆り出されることになるだろう。
これまで勝ち馬に乗ろうと様子見だった公明党も、大村氏を支援する方向に行かざるを得ないのではないか。
静岡県知事選は、リニアだけでなく、岸田政権の命運にかかわる戦いにもなる、といっても過言ではない。