70歳以降の医療費負担は軽減される

高額療養費制度は70歳でしくみが変わり、現役並み所得以下なら負担が軽くなります。たとえば年収156~370万円の住民税課税世帯が負担する月あたりの医療費負担の上限は、外来で1万8000円、世帯合計でも最大5万7600円です。

昨年亡くなった筆者の父は、手術のため同月内で15日間入院しました。かかった医療費の総額は約130万円でしたが、実際の自己負担額は10万円足らずでした。食事代(46回分で2万1160円)や差額ベッド代(15日分で1万8000円)、諸雑費を含めてです。

差額ベッド料など保険外診療の出費や、入院時の食事代(1回460円)は、高額療養費制度の枠外で負担します。知っておきたいのは、差額ベッド料は患者本人が希望し、契約書に署名をした場合に発生する負担ということ。治療の必要がある場合、病院は料金を求めてはならず、病院の都合による徴収はできません。

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差額ベッド料に関してトラブルが多く発生していることもあり、各地方公共団体も情報提供を行っています(例:中央区「差額ベッド(特別療養環境室)について(参考)」)。差額ベッド料がかかる病室を希望しないのであれば契約書への署名は控え、その旨を病院に伝えて話し合うことをお勧めします。

50年以上先の入院に備えることには無理がある

老後の心配から、終身医療保険に入る若者もいます。しかし、医療保険はいわば「入院お助けグッズ」。給付金を受け取れるのは基本的に入院時なので、必ずしも医療費の備えになりません。

現在、約7割の方が病院で看取られます。しかし、超高齢化がより進行すれば、それも難しくなります。そこで政府は、自宅などでの在宅診療や、在宅で看取れるしくみを整えてきました。入院せずに治療を受けて相応の医療費負担が生じることも、この先考えられるわけです。

終身医療保険はどの保険会社でも現在主流の商品で、保険料が一生変わらないメリットが強調されます。確かに、若いうちの加入であれば保険料は抑えられるでしょうが、より長い期間にわたり保険料を支払うことにもなります。

加えて、入院一辺倒の備えがはたして50年後以降も役立つのかどうか。人口動態が変化し、医療制度や治療実態が変化していけば、必要とされる準備も変わります。現在の制度や治療実態を踏まえて作られた保険が、遠い将来にも実効性を持ち続ける保証はありません。