「推薦して敗れるなら、不戦敗のほうが良い」

もともと乙武氏の擁立は自民からの推薦含みで計画が立てられていた。

自民は裏金問題が直撃し、しかも東京15区補選は自民の衆院議員だった柿沢未途氏が選挙買収などの公職選挙法違反の罪で議員辞職したことをきっかけに行われる。責任を問われる中で候補者擁立もままならなかった。

そうした中、小池氏は助け舟を出すかのように、自民幹部に内々に乙武氏を擁立する意向を伝え、推薦を得る方向で調整していた。

自民としても選挙に強い小池氏が中心となって擁立した候補に相乗りできるのは渡りに船であり、茂木敏充幹事長は乙武氏が出馬会見を開く前に推薦する方針を明らかにした。

自民党の茂木敏充幹事長は推薦する方針を明らかにしていたが……(写真=Estonian Foreign Ministry/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

一方、乙武氏は自民の裏金問題に関する悪評を懸念してか、8日の会見で「政策を見て推薦したいという思いをいただけるのであれば1つ1つの政党とお話をしたいが、現時点では私自身から推薦依頼を出している事実はない」と発言した。

さらに乙武氏劣勢の情勢調査が広まると、時期を同じくして自民党内では乙武氏の推薦見送り論が浮上。12日には正式に見送りが決まった。

自民党が発表したコメントでは、理由を「本人から推薦の要請がないこと」「選挙区である江東総支部から党としての推薦を出さないでほしいとの要望があがっていること」などとしたが、背景には「乙武氏を推薦して選挙戦で敗れるくらいなら、不戦敗のほうが良い」(自民党関係者)という思惑もあったようだ。

当初想定していた選挙体制は瓦解

乙武氏を巡っては2016年参院選で自民党が擁立しようとしたところに、週刊新潮が不倫などの女性問題を報じて出馬を断念。2022年参院選には無所属で東京選挙区(定数6)に出馬したが、9位で及ばなかったという過去がある。

それだけに、三度目の正直で十分な応援体制を構築し、選挙戦に挑もうと準備してきたわけだが、結局、乙武氏を推薦する国政政党は国民民主党だけになり、当初想定していた選挙体制は瓦解した。

さらにそこに、元都民ファ事務総長による告発によって、小池氏の学歴詐称疑惑が再燃。2020年に駐日エジプト大使館がFacebookに掲載した、小池氏の卒業を認める「カイロ大学声明」自体に小池氏自身が深く関わっていたのではないかと指摘され、選挙戦への影響が懸念される。

東京15区補選を巡って思惑が外れたのは自民側も同じだ。

自民は裏金問題で揺れる中でも、昨年12月の江東区長選、今年1月の八王子市長選で辛勝を重ね、その背景には小池氏との連携があった。

そのため、補選でも小池氏と協力することで東京15区を押さえ、面目を保つという算段はかねてから言われていた。

しかし、推薦見送りによって東京は自民の不戦敗に。長崎3区も裏金問題で政治資金規正法違反に問われた谷川弥一元衆院議員の地元というだけあって擁立を見送り、自民が候補者を立てたのは島根1区のみとなってしまった。