原発事業統合に「検討の余地アリ」
ただ、事業統合へと両社の背中を押した要因は、国内事情が大きい。火力発電に限らず、原子力発電を含めた国内の電力設備の市場は、両社に東芝を加えた「御三家」を中心に回ってきた。しかし、1990年代まで準公共投資的な性格を帯びた電力会社の設備投資規模は縮小し、トップの座を通信業界に譲って久しい。パイ(需要)の分配で安住できた御三家にとっては、パイの拡大が期待できなくなった以上、成長の活路を海外市場に求めざるをえなくなった。それに拍車をかけたのは、東京電力福島第一原発事故以降の混乱した電力事情だったのは言うまでもない。
事業統合発表会見で、三菱重工の大宮社長が「日本企業同士の消耗戦でなく、海外で戦っていく体制が必要」と語ったのが、「内向き」な事業の限界を何より物語っていた。同時に、日立の中西社長の「三菱重工は競合すると手強い相手だが、パートナーとしては心強い」との発言からは、日照り状態に陥った国内事業から成長の伸びしろの広がる海外市場の開拓に、大きく軸足を移そうとする両社の選択の意図が滲み出ていた。
両社は、00年の製鉄機械事業、さらに11年には水力発電事業を統合するなど、日本の製造業を支えてきた重工・重電分野で系列の枠を超えた連携で実績を重ねてきただけに、今回の事業統合でも親和性が引き出せると見られる。
今回の事業統合は、日本の原発の再稼働問題が見通せないことから原発事業は含まれていない。しかし、両社トップはその行方次第で原発事業統合に検討の余地があることも示唆した。さらに、高速鉄道などの交通分野やスマートグリッド(次世代電力網)を活用した電力を自給自足するスマートシティー分野での協業の可能性にも前向きな姿勢を見せる。
両社には昨年夏、経営統合構想が浮上した。しかし、日立の勇み足と、呑み込まれる危機感から阻止に動いた三菱重工との意思の齟齬から立ち消えとなり、「幻の経営統合」に終わった。経営統合の可能性を大宮、中西両社長は否定する。しかし、稼ぎ頭の主力事業を統合新会社として連結子会社化する三菱重工、持ち分法適用として主導権を同社に譲る日立の両社が切ったカードの裏側には、昨年「真夏の夢」に終わった統合構想が、完全に消え去ったわけでないように映る。