後遺症が残るような大きな事故の場合はカバーしきれない

ただし、例えば、交通事故などで子どもが被害に遭った場合、こうした医療費や障害見舞金だけではなく、親が通院に同行して会社を休まざるを得なかった場合の親の休業損害や、通院が長引けばその期間に対応した通院慰謝料、後遺症が残れば後遺症の程度に応じた逸失利益なども補償の対象となります。しかし、災害共済給付制度では、こうした被害者に生じるすべての損害をカバーすることはできません。

そうなると、軽いケガで済めば「子ども同士のことだし、医療費さえカバーできれば、事を荒立てる必要もない」と考える方も多いと思います。他方で、本件のように将来にわたって後遺症が残ってしまうような大きな事故の場合には、災害共済給付制度からの給付金だけでは満足せずに、将来に向けて十分な補償を得ておきたいと希望する場合もあるでしょう。

このように、災害共済給付制度でカバーしきれない損害についても、しっかり補償を得たいと考える場合には、別途、加害をした子どもの保護者や保育園に対して損害賠償請求をすることになります。

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子どもに責任能力がない場合は親に損害賠償義務が生じる

もし大人が不注意で誰かにぶつかって、相手を転ばせてけがを負わせた場合、そうした行為は、民法709条に定められている不法行為として、加害者本人が被害者に損害賠償をしなければなりません。しかし、加害をしたのが幼い子どもであった場合、そもそも人にけがをさせないように十分に周りに気を付けたり、ルールをしっかり守るということも難しいでしょう。

民法712条では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています。この「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを「責任能力」と言います。この条文の意味は、子どもが、不法行為に当たるような行為をして、他人に損害を与えてしまっても「責任能力」を備えていない場合には、その子ども自身は賠償義務は負わないということになります。

なお、法律上、明文の規定はありませんが、裁判では、子どもが責任能力を備える時期は、おおむね12歳程度と考えられています。そのため、本件では5歳の子どもには責任能力がなく、子ども自身には賠償義務はないと言えます。

では、責任能力のない子どもにけがをさせられた被害者は、泣き寝入りとなってしまうのでしょうか?

そのような事態にならないように、民法714条では、子どもに責任能力がない場合には、子どもを監督する立場の人たち(監督義務者)に、子どもの代わりに損害賠償義務を負わせることにしました。監督義務者とは、すなわち子どもたちの親のことだと言ってよいでしょう。