「次はキャズムを超えられるかどうか」と言われていた

2.EV失速はマーケティングの「キャズム」が原因か?

EV失速が騒がれるようになってから、経済の解説でよくみられるようになったのがマーケティングの「キャズム理論」です。

これはさまざまな新商品や新サービスが出現した際に共通して起きる現象を記述する理論で、簡単に言うと「新商品の利用者が市場全体の16%近辺に達したころに成長の壁を経験する」という理論です。

たとえばスマホが普及を始めた当時に「ガラケーの方が圧倒的に使いやすいよね」という人がたくさんいたことや、キャッシュレスがブームになり始めた当時に「でも現金の方が便利だよね」という人が多数いたことを思い返してください。

そういった黎明期では新しいサービスを使い始める人たちはまだ市場の一部です。最初に使い始めるのが新しいもの好きな人たちで、その次にアーリーアダプターという新技術への関心が比較的高い層が続きます。このふたつの消費者層を合わせると市場全体の16%ほどを占めると言われています。

EVの場合、昨年段階で欧米市場では新車販売全体に占めるEVの比率が15%前後に上がっていたことからマーケティングの世界では「次はキャズムを超えられるかどうかがチャレンジだ」とささやかれていました。

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「充電インフラが少ない」「走行距離が短い」「価格が高い」

新製品の市場浸透理論では、新製品が画期的であれば市場の16%までは比較的順調に成長できるのですが、アーリーアダプターの次に新商品を買おうとするアーリーマジョリティという顧客層がそれまでの顧客とは違って慎重な性質をもっているために、簡単には新商品を買わない傾向があるのです。そのことを「キャズム(深い谷)」と呼ぶのです。

EVではアーリーマジョリティはEVの意義は認めているものの「もし出先で電気切れになったらどうしよう」とか「価格が高すぎて買うのはためらわれる」「冬の寒い日はEVは立ち往生するらしいじゃない」といった心配から購入に至ることができません。

特にスマホと違いEVの場合は、このように充電インフラが少ない、走行距離が短い、価格が高い、寒さに弱いといったリアルにマイナスに感じる要素が多いために、キャズムがより深いと考えられるのです。

この理論は現象としては正しいのですが、結論をミスリードする危険性があります。つまりこのままだと「充電インフラ、走行距離、価格、そして寒さ対策の4つが揃わないとEVはマーケティング的にこれ以上普及できない製品なのだ」という解釈につながるのですが、それは根本のところで実は正しくはないという問題を抱えています。そのことを3番目の視点で解説したいと思います。