財政再建は「5つの輪」で考える
財政再建は図にあるような五輪で考えることができます。
まず、生産性の向上です。すなわちGDPが上がっていなければ、社会保障を払うお金がない、あるいは赤字を減らすための税収の基盤がない。だから、まず生産性を上げて、成長率を上げる。いま、日本の人口は減っていますから、生産性を上げる以外GDPを上げる方法はありません。IT及び科学の進歩が加速しているので、これは高度成長時代に匹敵するまでいかなくても、それほど難しいことではないはずです。
もう1つはデフレ脱却です。デフレになると歳入(税収)が減る一方で歳出は減らないので、穴の開いている桶に細り続けるパイプからお水を入れているようなものです。
もう1つは成長を目指した歳出再編です。成長につながる歳出を増やして、つながらない歳出を減らす。社会保障の個人負担もある程度増やさざるを得ません。医療のために教育及び研究開発を削れば、将来的はじり貧になります。
そして、税制改革です。消費税を2015年から10%にするよりも、私は2・2・2という制度を提案したいと思います。つまり、消費税2割。所得税2割。法人税2割。基本は税率一律のフラットタックスです。所得の低い人たちは所得税を1割のままとし、年収300万など、一定以上の所得がある人はフラットで控除なしにする。そうすると税で頭を悩ませることもなくなり、税理士の能力をほかの分野で使えます。
また、日本の法人実効税率は40%程度ですが、これを20%まで下げる。そうすると日本で投資して日本で雇用するインセンティブが強まります。
最後は正しいことをやっても落選しない選挙制度を整える。先にお話しした一票の格差を是正することもその1つです。最近自民党が提案した衆議院のゼロ増5減案、自民党と民主党が合意した参議院の4増4減案はちっとも改善になりません。後者に関して、日経新聞の社説は「びほう策」、「国会は不明を恥じるべき」としています。
ここに書いた五輪は財政再建の課題を対象にしたものですが、民間の会社でも同じアプローチが必要です。部門によって、数字をつくることが最優先のところもあれば、新技術開発が最優先のところもありますが、個々の部署が各々の最優先事項のために最適化すると全体で非効率になったり、矛盾が出たりします。
※この連載は『フェルドマン式知的生産術』(ロバート・アラン・フェルドマン著、プレジデント社)からの抜粋です。
1953年生まれ。70年、交換留学生として初来日。76年、イエール大学で経済学、日本研究の学士号を取得。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。国際通貨基金(IMF)、ソロモン・ブラザーズを経て、98年、モルガン・スタンレー入社。(現・モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)現在、チーフ・エコノミスト兼債券調査本部長。著書に『日本の再起』(東洋経済新報社、2001年)、『構造改革の先を読む』(同、2005年)『日本経済 起死回生のストーリー』(共著、PHPビジネス新書、2011年)などがある。