新政権にとっての大きな課題が財政再建です。今回の衆院解散の引き金ともなったのが、昨年の社会保障と税の一体改革関連法案です。
「一体改革」といいながら消費税増税が先行したという批判をあびました。社会保障制度改革への取り組みは緊急課題ですが、財政再建の議論には成長政策や選挙制度改革といった視点も必要です。

社会保障と税の一体改革だけでは不充分

少し前、消費税を上げるか、上げないかということが非常に大きな話題となりました。財政再建のために避けて通れない議論でした。この財政再建を車にたとえてみたいと思います。あなたが車を買おうとしているとき、ディーラーの人が「まずブレーキを買いましょう」と言い出したらどう思うでしょうか。驚きますね。ブレーキはとても重要な部分ですが、そこだけ取り出してどうですかといわれても困ります。

「財政改革の要は消費税」という議論も、私はこれに似ていると思います。部品だけ見せられて「イエスですか、ノーですか」と言われてもわかりません。

「あなたの車にはブレーキがなくていいのですか」と聞かれたら、「いえ、ブレーキは必要です」と言うしかありません。でも実際に車を走らせるためには、エンジンも、ハンドルも、車輪も、座席も、変速機も必要です。さらに、ガソリンも、道路も、信号も、警察も、法律も必要です。ですから、部品が価値を生むためには、こうしたものがすべてパッケージでそろわなければならないのです。

よく、「選択と集中」の重要性が言われますが、選択していないのに集中だけするという間違ったパターンがあります。たとえば起業するときは、どんな事業をやるのか、どうやってお金を調達するか、どこで人を探すか、それらを全部同時に考えて実行していかなくてはなりません。この段階でどれかに「集中」すると失敗します。財政改革にしても企業経営にしても、「選択と集中」を言い訳にして部品感覚でやってはいけません。

民主党及び自民党は消費税と社会保障の一体改革だと言っていましたが、一体と言っているわりに、社会保障制度の改善はほとんど見えないまま消費税率引き上げ法案だけが通ってしまいました。じつは、消費税と社会保障の一体改革にしても、まだ足りないものがあります。それは成長政策です。経済成長なしに社会保障の維持はできません。生産性を上げていかなければ、消費税率を上げても財政改革ができないだけではなく、年金も医療費も支払えません。