政府の歳出・歳入を事業別に分けてみる
今後どのような種類の財政再建が可能かを、ここで改めて「結合力」を使って考えてみましょう。
まず、日本の政府の歳出総額は、約200兆円です。よく「約100兆円」という数字が出ますが、これは国の一般会計のみを指しています。企業も連結ベースで見るように、政府も連結ベースで見るべきです。特別会計、および地方自治体、社会保障基金を入れると約200兆円になります。全体像を正しく見る数字を使うこと、これは結合力の原点です。
もう1つ大切なのは、有意義な分類をするということです。たとえば企業を分析するときには、事業=ビジネスライン別に見ます。事業別に並べてどこで利益を出しているか、どこで損を出しているかを見るのです。しかしながら、政府の場合はほとんどそういうことをやっていません。そこで、ここでは国・地方・社会保障基金を連結ベースで見て、日本政府の歳出・歳入をビジネスラインで分けてみました。表を見てください。
まず、営業収支。これは公共財の提供です。消防署、国防、教育。すなわち市場化しにくい、政府の提供している財とサービスです。目的税ではない収入はここに入ります。
もう1つは社会保障勘定収支。年金保険、医療保険といった事業です。社会保障負担は収入です。
3番目は利子収支です。これはビジネスラインというよりもコストの一種です。収入は政府の利子所得です。
4番目は資本取引です。すなわち政府がお金を貸し、返済してもらうこと。JICAや政策投資銀行などの政府系金融機関の活動です。
ということで、国は3つのビジネスライン+利払いに分類することができます。
分類すると、いろいろなことが見えてきます。まず、公共財のところを見てください。2008年度の数字ですが、営業収入は黒字です。ここには目的税ではない一般税(所得税、資産課税など)が収入としてカウントされています。今の段階では、消費税も目的税ではありません。その下の営業歳出は、公共財としての財とサービスの歳出です。公共投資も入ります。入ってくるお金はだいたい85兆円、出ていくお金が75兆円、差し引き10兆円の黒字でした。
さて、こんどは利払いを見てみましょう。
金利所得と利払いの差が4.9兆円。全体から見ればそれほど大きくはありません。
次は政府系金融機関の資本取引です。貸したお金と、戻ってきたお金です。後者は元本返済分だけで、利払いは含まれません。2008年度は8.9兆円のお金が戻ってきました。これは同額の資産を売却したことと同じです。ここも黒字になっています。
ここまでをまとめると、営業収支は黒字、資本取引も黒字、利払いで若干の赤字。ではなぜ全体で大きな赤字になっているのかといえば、これは社会保障勘定のせいです。社会保障勘定には57兆円の収入があります。われわれの給与から天引きされる社会保障費は全部ここに入ります。税の定義次第ですが、このお金は法律で決めた義務があって支払われるので、「税」と呼んでいいでしょう。財務省は、日本の税収は40数兆円、と言いますが、これは国の税収だけです。国民は国税にくわえて地方税も社会保障負担を払っています。後者の額はいくらになるかといえば、2008年は57兆円でした。使ったお金は104兆円。うち、約60数兆円は年金、約34兆円が医療、残りがその他の福祉です。子育てや失業者の支援などに使われるお金です。生活保護も入っています。57兆円から104兆円を引くと、47兆円の大赤字です。
このようにして見ると、日本の赤字は、社会保障勘定の赤字といってもいいです。
では、2008年より前はどうだったのでしょうか。図を見てください。社会保障歳入、社会保障歳出の対GDP比率を示した線と高齢化度合いを示す線です。高齢化は右肩上がりに進んでいます。
面白いのは1980年から1992年までです。高齢化が進んでも、歳出と歳入の格差は広がっていません。まだ財政規律があり、デフレではなかったからです。若干の増税もありました。それが1990年代に入るとどんどん歳出が増えていきます。小泉政権時代には歳出を抑えたので増え方が緩やかになり、フラットに近くなっていますが、その時期を過ぎるとまた規律がなくなって爆発しています。
こんどは歳入のほうを見てみましょう。1980年にはGDP比で約7%でした。2009年には13%超で、ほぼ倍増しています。つまり、社会負担を対GDP比で倍増しても赤字が増えたということです。
民主党政権は事業仕分けや公務員制度改革などで歳出を減らしつつ、バラマキをやって社会保障の歳出を増やしながら、違うバラマキをしたい自民党と手を組んで消費税だけはいちはやく増税しましょうという政策です。日本経済の持続性を阻む政策です。つまり、部品が噛み合わないのです。結合力がないと、全体を犠牲にしてしまうということです。