「母親が育てる」がうまくいくとは限らない

赤ちゃんが実母のもとに戻ったと聞くと、「よかったね」と私たちは反応してしまいがちだ。つい、お母さんが育てることになってよかったと受け止めてしまう。

しかし蓮田さんは心配する。それはなぜなのか。

「預け入れにきた女性にはどなたにも、預け入れを選択しなくてはならないだけの難しい事情があったはずです。そうでなかったら、わざわざ熊本まで来られることはありません。赤ちゃんを育てることを困難にしている問題を明らかにして、解決に向けた生活の土台づくりをしないまま赤ちゃんを戻しても、うまくいくとは考えにくいのです」

「こうのとりのゆりかご」に預け入れした理由で多いのは「生活困窮」「未婚」「世間体・戸籍」(熊本市「こうのとりのゆりかご」第5期検証報告(資料編)P91より)

この事件もそうだった。被告が「こうのとりのゆりかご」から三女を取り戻したあと、被告の個別の事情を汲んだ支援は不十分だった。そして被告は虐待の負の連鎖にはまった。

母親になったある女子高校生に抱いた懸念

「預け入れにこられた直後に撤回した方たちの中には現在もつながっている方がいますが、多くは厳しい状況にあります」

そして今もなお気がかりなのだと、蓮田さんはあるケースについて話してくれた。それは、預け入れから3カ月後に赤ちゃんが自宅に戻ったケースだった。母親の精神的な不安定さと幼さについて、支援体制が整わないまま赤ちゃんが戻っていくことに懸念を覚えたという。

蓮田さんによると、女性は高校卒業の直前に自宅で1人で出産し、友人の運転する車で来院。「こうのとりのゆりかご」の前でわいわいと写真を撮っているところに看護師が駆けつけた。

「高校生が1人で家で出産した直後に『こうのとりのゆりかご』の前ではしゃいでピースサインをして写真撮影をしている、それは、辛かった体験なのになんでもなかったかのように振る舞っているということです。彼女の病的な内面を感じさせるものでした。妊娠をご両親に打ち明けられなかったということはなんらかの壁があることを示しています」