マイナス金利政策解除では何も変わらない

先月31日の政策決定会合の際には、YCCのほかに「マイナス金利政策の解除」が可能性として取りざたされていた。

私は、これが日銀の取れる唯一のオペレーションであり、いつかはこれを行うと思っている。しかし、これは「金融緩和政策の変更もどき」であって実質的に何の意味もない。金融緩和の解除などとはお世辞にも言えない。

情けないことに、多くのマスコミがマイナス金利政策を「重大な政策変更」と誤解している。非常に多くの外国人もそうだ。

お化けは「出るぞ、出るぞ」と脅されているときが一番怖く、出てしまえば、「なんだ」と言うことになってしまう。それと同じだ。しかし、スカだからこそ日銀はできる。そして何も変わらない。

世界各国の中央銀行は、政策金利の変更を通じて市中金利に影響を与えようとする。銀行間の貸借レートに変化を与え、貸出金利、企業への融資レート、FXのスワップポイントに反映させることを狙う。

FED(米国の中央銀行)も同様だ。現在のFEDの政策金利5.25~5.5%は、銀行間の1日間の貸借レートそのものだ。だからこそ、FEDが政策金利を引き上げると市中金利(特に1日物金利)もそれと同じだけ上昇する。

0.011%上昇では金融引き締めの効果はない

ところが、日銀の金利政策である▲0.1%とは、銀行間の1日間の貸借レートそのものではない。

3層に分かれている545兆円の日銀当座預金(市中銀行が日銀の預けてある当座預金)のうち、たった30兆円弱に付利されている金利のことである。いわば日銀に預け過ぎの部分に適用される一種のペナルティーに過ぎない。

実際、11月2日の銀行間の1日間の貸借レートは▲0.011%だ。マイナス金利政策を解除しても、銀行間の1日間の貸借レートがたったの0.011%上昇するだけだ。「マイナス金利解除」と聞くと大イベントのように聞こえるが、実質的に何も起こらないのである。

先日、日経新聞紙上で、前田栄治前日銀理事が「マイナス金利解除では変動金利型の住宅ローン金利は上がらない」と発言していたが、これがその理由。このニュースで為替が多少円高に振れてもすぐ円安基調に戻るだろう。

日銀は、この歴史的な円安を止めることはできない

今まで述べてきたように、日銀は出口の第一歩であるYCCの見直しはできない。撤廃もできない。マイナス金利政策の解除はできるが、金融引き締め効果はない。ゼロ金利政策の解除や、ばらまいたお金の回収など、もってのほかである。

日銀はインフレが加速しても何もできないのだ。インフレに対処しようとすれば日銀が自滅してしまうからだ。円の暴落を恐れて、何もしなければ、円はとめどもなく下落を続ける。暴落よりはスピードが遅くなるが、と言うだけの話だ。

日本銀行本店(写真=Fg2/PD-self/Wikimedia Commons