私は大学での映像研究の一環としてのドキュメンタリー制作に「VOICEPEAK」というソフトを使っている。これは最新のAI音声合成技術を使ってナレーションを読み上げることができるというものだ。6人のナレーター(男性3名、女性3名)が、感情パラメータによって喜怒哀楽を表現するなど、かなり精巧に作られていて重宝している。そして何よりも、「読み違えや失敗をしない」ことが利点である。「疲れた」と文句を言うこともない。
こういった技術の進歩も、アナウンサーたちに危機感を抱かせる原因となっていることは否めない。
テレビ局はいつまで女性アナを使い捨てにするのか
以上、女性アナの局からの大量流出についてその理由となる構造的な欠陥を検証してきたが、それらを踏まえて最後に私から解決策の提案をしたい。
例えば、AIアナウンスの目的はアナウンサーの仕事を奪うことではない。大事なのは「役割分担」をするということだ。アナウンスをAIに任せる分、アナウンサーは取材や企画制作、情報発信に力を注ぐことができる。このように、女性アナの「役目」をちゃんと明確にしてあげられるような処遇をするべきだ。特に、キャリアを重ねた女性アナは顔も広いし、取材能力も高い。そんなスキルを使わない手はない。
「新旧交代」や「AIの台頭」は時代の流れで仕方がないところもあるだろう。だが、会社が「人事異動」を恐怖に感じないような仕組みや彼女たちが「喪失感」を抱かないような工夫をしてあげることはできるのではないだろうか。
アメリカにはアナウンサーという職業はない。したがって、「女性アナウンサー」という概念もない。番組の中心となって記者の原稿を最終的にまとめるという意味から「アンカー」と呼ばれる職種の人が、男女とも年齢に関係なく個性や能力を重視されて登用される。
こういった役割を女性アナに与えてゆくことで、本人もプライドを持ち、安心して仕事に打ち込むことができるのではないか。だが、これらは局が重い腰をあげて改革に乗り出さない限り、実現するものではない。
女性アナの活路は閉ざされたまま
では、そんな場合には、女性アナの活路は閉ざされてしまうのだろうか。いや、そうではない。
結婚と出産を経たベテラン女性アナが、「育児も仕事もどちらも両立したい」という思いから決断をして離職をする。それはいま一度、「立ち止まって、自らの働き方を考えたい」という思いからだろう。そういう意味では、女性アナの大量流出は決して悪いことではない。私はそう考えている。多様性の社会で、情報発信の方法も広がっている。活躍の場は少なくないはずだ。
局の都合で商品化・タレント化され、「広告塔」として世俗の関心の目にさらされ、時には叩かれ、やりたいことも我慢し、好きなことも犠牲にしてきた。社内では「ガラスの天井」に阻まれ、セクハラにも耐えてきた。
いまこそ、そんな女性アナたちの、エンパワメントの時なのだ。