自分の価値を見失わせる「テレビ局の理不尽」

記者出身だけあって、茅原氏はしっかりと情報の内容を自分なりに解釈して読む。そのアナウンスぶりには定評があり、テレ東のニュース番組では重宝された。

ニュース番組のなかの企画コーナーも自ら作り、放送していた。そんな茅原氏に転機が訪れる。3人目の子どもが幼稚園に入ったころ突然、古巣の報道局に戻されたのだ。都庁と厚生労働省担当記者になった茅原氏は、あまりの忙しさに「残業でどんなに夜遅くまで働いてもいいので、せめて幼稚園の送りはしたい」と、朝だけ30分の時短を申し出た。すると当時の上司から、「そんなことは認められない。もしどうしてもというなら、人事異動をする」と言われたという。

スタジオ収録中のテレビカメラ
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茅原氏は意志を曲げず、時短勤務を敢行。結果、事務系の部署に人事異動をされたが、その出来事はその後の女性社員の環境づくりやロールモデルの途を拓くこととなった。茅原氏は言う。

「その当時は我慢するしかなかったんです。でも、いまはそういう時代ではないですよね。いわゆる『地の時代』から『風の時代』に変わりつつある。時間だって仕事だってシェアできる。働き方だって柔軟に考えられるはずです」

それが近年、女性アナが大量にテレビ局を辞めてゆく理由のひとつだと語る。そこには前述したような、「理不尽な会社の仕打ち」もあるだろう。そしてさらには……。

「どんなに忙しくても、つらくても、子どもを抱えていても、『やりがい』があればアナウンサーは乗り越えられるものなんです。でも、『誇り』や『やっている意味』がないのかなと思う瞬間があって、そんなときにそのままやっていく『価値』を見いだせなくなってしまうんです」

「私でなくてもいいのよね」と思いながら仕事をするのは、つらいことだ。茅原氏の例を見ても、テレビ局がいかに女性アナを将棋の駒のように考えているかがわかるだろう。

人事異動、喪失感、新旧交代…

「人事異動」という恐怖、ふと気がついたときに訪れる「喪失感」、若手アナウンサーの台頭による「新旧交代」、そしてもうひとつ私が女性アナの大量流出の原因として挙げたいのが、「AIの台頭」である。

NHKでは現在、「AIアナウンス」の開発に余念がない。「おはよう日本」の一部ニュースにも導入が始まっている。民放でもテレビ朝日に「AIアナウンサー」の花里ゆいなが登場するなど、人間の女性アナに代わってAIが起用されることが増えている。