テレビ局は「大量流出」を憂いているのか

以上のような考察をしてゆくと、テレビ局が社員であるはずの女性アナを本当に大切に思っているのか、また今回のような「大量流出」を憂いているのか、そしてその対策をまじめに考えているのかは疑問である。

というのも、私の記憶のなかにはある出来事があるからだ。それは、テレ東における「アナウンサー部屋廃止」事件である。

2020年にテレ東の現役女性アナたちの音声が盗聴され、あるツイッターアカウントに公開されてしまったことが波紋を広げた。音声は、2人の女性アナが実名を挙げてスタッフや先輩アナの悪口を言っている内容だったからである。その歯に衣を着せない発言もさることながら、「誰が盗聴したのか」「流出させたのは誰か」と社内では犯人探しがおこなわれる騒動にまで発展した。

そしてこの一件をきっかけに、テレ東内ではアナウンサーが待機する「アナウンサー部屋」が廃止され、アナウンサーたちは総務部や人事部など管理部門のフロアのど真ん中に席を移動させられた。これではアナウンサーたちはたまったものじゃないだろう。ほとんど、「監視されている」ようなものだ。

アナウンサーというのは人前に出る特殊な仕事だ。現場の仕事が終わって息抜きをしたり、皆でおしゃべりをしながら情報交換したりする場が必要である。それなのに、外でも人目にさらされ、社内でも人目にさらされるとなると、メンタルがやられても不思議ではない。事務職の人たちのなかにいると、おちおち雑談もできないだろう。アナウンサー本人たちのことを少しも考えていない措置だと、当時の私は驚いたものだった。

何が起こっても「局は守ってくれない」

当のアナウンサーたちも、何が起こっても「局は守ってくれない」ことを強く認識したに違いない。そういった忸怩たる思いの蓄積も、退職への道を選ばせる理由になっているのではないか。

たとえば、誰かが退職をニュースサイトに抜かれる事件が起こったりしたときにも、同じようなことをやっているのではないだろうか。そう懸念している。本人は何も悪くないのに、もし会社から注意勧告を受けるようなことがあれば、「いったい誰を守っているのか」「この人(上司)は自分の保身のためにそんなことを言っているのか」と疑いたくもなり、虚しさやもどかしさを感じるだろう。

今回、元テレ東のアナウンサーに取材をすることができた。茅原ますみ氏である。茅原氏は1987年に入社。当時はアナウンサーを志望していたが、かなわず報道局の記者に配属された。そして元フジテレビアナウンサーの笠井信輔氏と結婚して出産後、アナウンス室に異動した。テレビ業界初の「ママになってからアナウンサーになった」という経歴の茅原氏は、現在はフリーアナウンサーとしてさまざまなかたちで情報発信をおこなっている。

茅原ますみオフィシャルブログ「C'est Magnifique! 気は口ほどに…」Powered by Amebaより