被害に遭った男性の情報もリストに掲載
日本で最初の「オレオレ詐欺」は2003年だと言われている。20年という年月が、こうした犯罪グループがより複雑化し、暗躍する土壌を形成した。
筆者は名簿屋に確認したかった。今回の被害者はリストに載っているのかと。
「あぁ、この事件が起きたとき確認したけど、家族構成や想定資産が載っていた」
ルフィグループが壊滅した後に起きた事件だ。模倣犯ではなく、ルフィとは別の組織が関与しているのだろうか。
「間違いなくそうだ。ルフィとは別だ。こういうリストは素人には買えないよ」
数日後、この話のウラが思わぬ形でとれることになる。
被害男性の妻が警察を通してマスコミに周辺取材などの自粛を呼びかけるとともに、こんなメッセージを発表したのだ。
十数年前から「被害に遭うのでは」と怯えていた
「私と夫は突然の被害に死を覚悟しました。
今も、よみがえる恐怖もあり混乱の最中にいます。
夫の名前の載る闇リストの存在は震災以前から承知していたにもかかわらず詐欺被害を被ってしまい、民事裁判や刑事裁判に巻き込まれた事実も有ったことから、私たちなりに日々防犯に努めていましたが、このような事件に逢ってしまいました」(原文ママ)
十数年前、福島県では、特殊詐欺事件の捜査段階で押収されたリストに名前などが載っていた人物に対し、警察から注意喚起をしたことがあった。そして当該リストに含まれていた一人が、今回の事件の被害者だったという。
マスコミ各社には警察から「周辺取材の自粛要請」が出されたが、それにはあえて触れず、被害者が「昔の名簿」に載っていたことに注視する報道が続けられた。テレビは被害者宅がいかに広大かをリポートし、新聞の社会面には大きな空撮写真が掲載された。
たしかにそれを見るだけで、この地域の名士だったことが伝わってくる。
同時にこの場所で、被害者である70代の夫婦が見えざる恐怖に怯えながら暮らしていた日々を思うと、実行犯だけでなく、名簿販売業者も非難されてしかるべきだ。
悪びれる様子のない名簿屋の話を鵜呑みにするのはシャクではあったが、筆者はこの事件を深掘りすることを決めた。「ルフィ」とは違う組織による犯罪が起きている。一連の報道ではなにか「詰めの甘さ」を感じていたからだ。取材を続ければ、新たなる組織像がおぼろげながら見えてくると思ったのだ。