30万円弱の借金を抱え、闇バイトに手を出す
2022年11月。生活費に窮していた上野は、Twitter上で「高額バイト」「即金5万円」などと謳い「闇バイト」を募っていた「桃太郎」を名乗るアカウントに「仕事したい」とDM(ダイレクトメール)を送った。
「桃太郎」からはすぐに返信があった。メッセージ交換の場を、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に変更すると告げられ、「まず、免許証と住民票の画像を送ってほしい」と指示が送られてきた。
不安がないわけではなかったが、上野はすぐにその求めに応じている。背に腹は代えられない。借金を抱えていたのだ。ただ、借金の額は30万円弱、消費者金融からによるもので、闇金からではない。闇バイトに手を出す者たちと比べると、ゼロがひとつ少ない額。普通のアルバイトで地道に働けば数カ月で返済可能な額とも言える。
しかし、それまでまともに職に就いた経験のなかった上野には大金に思えた。両親に頼めば何とかしてくれると思ったが、プライドもあった。それにあの厳しい父親に何を言われるのかわかったものではない。
免許証などを送ると、桃太郎から「東京都東村山市にある西武新宿線・久米川駅に向かえ」と指示があった。そこで仕事の内容を説明するという。
受け子と出し子、運転手役で報酬40万円
久米川駅に着いた旨を送信すると、駅近くにあるなんの変哲もないコンビニに誘導された。するとほどなくして30代から40代と思える小太りの男が現れた。
関西訛りの言葉で自らを「ルフィ」と名乗った。
ルフィは、受け持ってもらいたい仕事は「受け」「出し」と強盗の運転手役だ、と説明した。「受け」と「出し」はオレオレ詐欺などの特殊詐欺における「受け子」と「出し子」のことだ。提示された報酬は40万円だった。
報酬額を聞いたとき、上野は驚くとともに、頭の中ですかさずそろばんを弾いた。ホストをやっていた時代にもそんなに稼ぐことはできなかった。この時、何をやってもうまくいかない上野には光明が差し込んだように思えたことだろう。
借金をいっぺんに返して、さらにお釣りが来るではないか――。
ルフィからは「捕まることはありませんよ」と、まじないのような言葉をかけられたのだが、その甘言を信じてしまう。
リスクは考えまい、上野はふたつ返事で、3万円を受け取った。
その3万円は「仕事がある」という、岡山への片道の新幹線代とレンタカー代、つまり経費だという。その3万円をほとんどカネの入ってない財布に大事にしまうと、上野はすぐに岡山へ向かった。