「IQが高い人ほど難しい仕事をこなしている」のも事実
作家のダニエル・ゴールマンは、「こころの知能指数」あるいは「EQ」と名づけた自身の著作でベストセラー作家になっている。このEQでは、結婚生活から職場まで、現実の世界での人間関係に役立つと思われる多くの要因(自己抑制、情熱、忍耐など)について書いている。
こうした概念は大変役立つが、「新たな種類の知能」と呼ぶには必ずしも適切ではないかもしれない。なぜなら知能の概念を曖昧にしてしまうからだ。知能の研究者としてもっとも著名な一人であるアーサー・ジェンセンはこうした試みをチェスを運動技能だと呼ぶようなものだと批判している。たしかにチェスを研究したいが、チェスを運動と分類してしまうと運動の技術がどうやってもたらされるか理解できなくしてしまう。
当面、知能とは、IQで評価されるという一般的な知能概念に基づいて議論を進めることにする。IQは実際知能の評価基準としては成果を上げている。完全とはいえないが、将来学校の成績がどうなるかをかなり正しく予想してくれる。
知能研究で著名なジェームズ・R・フリン教授は、専門職ならびに経営職や技術的職業に就いている人を集団としてみた場合、平均よりも高いIQをもっていると報告している。
労働者全体でみると、仕事の内容が複雑になるに従い、それに携わる労働者のIQも上昇する。このことはまったく驚きもしない。より賢い人はよりできるという世間の想像を裏づけているからだ。IQの高い人はより難しい仕事をこなし、より高い社会的な地位を獲得する。
ではなぜ、IQが低くても成功する人がいるのか
古風な学問的な意味で知能一般を考えると、素粒子物理学者は歯医者より賢いし、歯医者は生産ラインで働く労働者よりも平均的には賢い。世界的な偉業をあげる人はたとえ特定の目的に対応する天賦の才をもたなくても、一般的な優位性、おそらくは優越的な知能を生まれつきもっているという見方にはたくさんの証拠があるように思える。
やっかいなのは、平均的なIQ以下の人たちにまで分析を進めたときだ。まわりを見てほしい。ビジネスの世界でほぼ間違いなく通常の意味であまり高い知能をもっていないのに、ときには目覚ましい成功を収める人に出会うことがある。こういった場合、普通はあの人は人づきあいが上手だとか、ものすごく働いたとか、本当に仕事に真剣に取り組んだとか言って成功の理由を説明する。
こうした要素はガードナーの多重知能やゴールマンのEQといった考え方に関連しているかもしれない。しかし決定的な点は、IQでは偉業を説明できないかもしれないと最初に我々が疑わしく感じたように、こうした能力ある人のもっているものは明らかに一般的な知能ではないということだ。
こうした証拠は実際のところ、山ほどある。我々が偶然遭遇する経験よりもはるかに多い。幅広い研究によればIQと業績との相関関係は、平均データが示すほどにはないかあるいはまったくないことが判明している。