不良債権処理が遅れた90年代日本と重なる

バブル崩壊後のわが国の経験からして、不動産バブル崩壊に関する政策が後手に回ったり、有効な対策の発動が遅れたりすると経済環境の厳しさは高まる。1990年代、わが国の政府は、金融緩和を強化しつつ、信用保証制度を拡充するなどして企業向けの貸し出し促進に取り組んだ。

1997年度までは公共事業関係費も積み増した。1999年には公的資金を用いて銀行の自己資本を増強した。当時のわが国の政権は、「景気を下支えすればいずれ設備投資が回復して景気は持ち直し、不良債権処理も解消に向かう」と考えた。

しかし、実際にはそうならなかった。不良債権処理が遅れたことによって徐々に金融機関のリスク許容度は低下し、景気は長期停滞に陥った。2008年9月15日のリーマンショックの発生直後、米国は迅速に金融緩和と財政資金を用いた不良債権(資産)の買い取り制度を発動した。また、シェールガス開発の支援も強化した。米国は、バブル崩壊後のわが国の教訓を生かし、景気後退を比較的短期間で切り抜けたといえる。

優秀な官僚の進言が中枢に届きにくくなっている

これまで中国人民銀行や政府の関係者は、失われた30年に陥った日本経済をつぶさに研究し、同じてつは踏まないとの見解を示してきた。しかし、わが国の教訓を活かすことは難しい。今回の全人代で明らかになった通り、習政権は経済よりも政治の強化を優先している。

経済政策に精通した優秀な官僚の進言は、習政権の中枢に届きにくくなったのかもしれない。政策が後手に回るだけでなく、ここにきて方向性までもがばらつき始めた。政策の方向性が定まらないことには、国内の企業、個人、海外企業、内外の投資家は中国の景気先行きに慎重になる。

先行きを懸念する人は、本土株や人民元を売り、資本逃避は激化する恐れも高い。資金流出を食い止めようと中国政府が資本規制を強化する恐れも増す。結果的に資金流入は細り、不動産市況の悪化、不良債権問題は深刻化するだろう。政策の方向性が一つに収斂しないことには、中国経済が正常な環境を取り戻すには長い時間がかかりそうだ。

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