「糖尿病で亡くなった人」はケトン臭がする

北海道で遺品整理や特殊清掃の事業を行っている企業「I’M YOU(アイムユー)」の代表取締役を務める酒本卓征たかゆき氏はこう語る。

「特殊清掃は、遺品整理よりもはるかに困難な仕事です。現場の悲惨さに慣れることはもちろんですが、脱臭においても特別な技術が必要になってきます。長らく放置された遺体の死臭は相当なもので、床下にまで染み込んでしまうと、ちょっとやそっと洗浄したり、市販の消臭剤をかけたりするくらいでは、取り除くことができないのです」

遺体の体液が発する臭いは、故人が生前にどのような食生活や病気、薬の服用をしていたかによって異なるという。

たとえば長らく抗がん剤治療を受けていた人は薬品臭がするし、糖尿病で亡くなった人はケトン臭(甘酸っぱい臭い)がするという。

そしてそれらの臭いを取り除くには、専門の知識と道具が必要になるそうだ。

「床を拭いて消臭剤で終わり」という業者もある

また、特殊清掃を依頼される場所も家とは限らない。

たとえば、ある人が車で山奥まで行き、そこで練炭自殺をしたとする。遺体発見まで日数がかかれば、その間に遺体は腐敗して車内を汚してしまっている。

遺族がその車を転売するために清掃しようとしても、一般的なカークリーニング業者では難しく、特殊清掃業者のスキルに頼らざるをえない。

酒本氏は言う。

「遺体の臭いを取り除くには、専門的な知識が必要になります。ただ、そうした情報は国内にほとんどないのです。そこで私は海外の文献をあさって勉強をしました。欧米は日本に比べて特殊清掃の歴史が長く、いろんな情報があります。そこから自分で学んでいったのです。

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「床を拭いて消臭剤で終わり」という業者もある(※写真はイメージです)

残念ながら、日本の特殊清掃業者の中にはそうした専門知識を持たないところも少なくありません。特にリサイクル会社がサイドビジネスなんかでやっているケースでは、ご遺体の体液が床下まで行っているのに、床の汚れをちょっと拭いて市販の消臭剤を吹きつけて終わりにすることがある。これで臭いが取れるわけがありません」